
裁量教材を機械化したらPF1.05、水平線の数値化だけがPF1.63で本物だった
裁量トレーダーの有料教材(よすが式ダウ手法)を丸ごとコードに翻訳し、前進検証で要素ごとに選別した記録。手法全体はPF1.05止まり、ライン付近フィルタも斜めチャネルも不発。唯一「効いている水平線の数値化」だけがPF1.63の本物として生き残り、採用スリーブに育つまでの全過程。
裁量トレーダーの有料教材を、ルールブックごとコードに翻訳してみました。結果、手法全体はPF1.05。1ドル失うごとに1.05ドルしか稼げない、ほぼ損益トントンの数字です。ところがこの検証の途中で生まれた「効いている水平線の数値化」だけは、PF1.63という核システム超えの成績を出し、最終的に私の運用ポートフォリオの一角として採用されました。
このブログでは裁量手法の機械化をこれまで何度も試して、ほぼ全て失敗しています。これはその中で数少ない、部品単位で成功が確定した例です。教材まるごとを4本の検証(研究71/72/74/75)で解剖し、効く部品と効かない部品がどう選り分けられていったかを1つの物語にまとめます。
はじめに: このブログと、読むのに必要な前提
初めての方向けに。このブログは、私(個人)がFXの自動売買プログラム(EA)を自作し、手法を統計検証して勝敗問わず記録している検証日記です。文中の「研究N」は私の検証ノートの通し番号。検証にはFX・金・株価指数の実データ(1分足から日足まで)を使っています。
用語を4つだけ。PF(プロフィットファクター)=総利益÷総損失で、1を超えると黒字。DD(ドローダウン)=資産の山からの下落率で、登山でいう「どれだけ下りに転じたか」。前進検証(ウォークフォワード)=過去データで決めたルールを、その後の未使用期間でテストして「過去の暗記」でないか確かめる手続き。スリーブ=運用システムを構成する部品としての戦略ユニットのことです。
題材はよすが式ダウ手法。ダウ理論をベースにしたトレンドフォローの教材(PDF)で、「FXで勝つ方法はトレンドフォローただ1つ。トレンドの初動を取る勝負」という思想が根幹にあります。実はこの結論、私が独立にたどり着いた結論と完全に一致していました。だからこそ、本気で機械化する価値があると考えたわけです。
教材の核を、本人ルールのまま翻訳する(研究71)
まず教材の論理的な核だけを忠実にコード化しました。大きなZigZag(ジグザグ=スイングの高値安値を結ぶ折れ線)でダウ理論のトレンド転換を定義し、上位足のトレンド方向と一致した場面で、小さなZigZagのスイング超えを「転換後の押し目」として買う。損切りと手仕舞いは押し安値割れ、つまりトレンド構造の崩壊です。
面白いのは、教材自身が手法の内訳を定量化していたこと。この論理的な核で手法全体の62%、「ライン付近限定」を足して71%、プライスアクションとシナリオ選択まで含めて76%と書かれています。今回機械化したのは、その62%の部分です。
| 指標 | 実測(前進検証・6年) |
|---|---|
| 通算リターン | +28.1% |
| 最大ドローダウン | -17.6% |
| PF | 1.05 |
| 勝ち年 | 6年中3年 |
通算+28.1%は一見悪くないのですが、中身を見ると大半が2020年の相場に依存していて、勝ち年は6年中3年。私の採用基準(6年中5年以上プラス)には届きません。既存のトレンド核システムとの相関も+0.65と高く、要するにこのロジックは「トレンドの再発見」をしているのであって、新しい優位性ではなかったんです。
ただし、これは教材が間違っているという話ではありません。核の論理は確かに機械化でき、確かに黒字にはなる。問題は、教材著者の稼ぎの本体がこの核ではなく、残り38%の裁量部分にありそうだということでした。

図: 前進検証のイメージ。この記事の全ての合否判定は、ルール決定に使っていない期間の成績で下しています。
「ライン付近だけ入る」を足しても届かなかった(研究72)
次は上積みの検証です。教材で唯一具体的に定量化されていた上積みレバーが「目立つ高値・安値のライン付近でのトレンド転換だけを狙う」というルールでした。ラインからの距離をATR(平均変動幅)基準でルール化し、フィルタなしと比較しました。
| 設定 | 前進検証の通算 | 勝ち年(6年中) |
|---|---|---|
| フィルタなし | +26.4% | 3年 |
| ライン1.0×ATR | +4.2% | 4年 |
| ライン1.5×ATR | +1.1% | 4年 |
ルール決定期間ではPFが1.05から1.11へわずかに改善したものの、前進検証ではどの幅でも通算がむしろ縮小。2019年のマイナスも埋まりません。取引を減らしただけで、頑健さは1ミリも増えていない。「ラインの近くにいるか」を機械的に測っても、ダメだったんです。
ここで一度、決着を付けました。トレンドフォローという核は機械化できて本物。しかし裁量の上積みは、唯一定量化されていたレバーを忠実に機械化しても、前進検証を通る優位性には変換できない。残りのアルファは「どのラインが本当に効くかの判断」「プライスアクションの読み」「シナリオ構築とトレード管理」という、文脈依存の裁量に分散している。そういう判定です。
転機は「近くにいるか」でなく「そのラインは効いているか」(研究73の橋渡し)
ここで終われば、いつもの「裁量は機械化できませんでした」です。でも今回は続きがありました。問いの立て方を変えたんです。「ラインの近くにいるか」ではなく、「そのラインは効いているか」を数値にする。
タッチされた回数、反発の強さ、ブレイクされたら無効化するライフサイクル。人がチャートで「このラインは意識されてるな」と読み取っているものを、未来のデータを見ない形でスコア化するレベル・エンジンを作りました。そして「重要度スコアの高い水平線の付近でだけ参入する」フィルタをよすが式に付けたところ、前進検証で6年中5〜6年プラスに到達。パラメータを振っても崩れず、単体でPF1.63、シャープレシオ(リスク当たりのリターン効率)1.16。核システムとの相関は0.52まで下がりました。
このブログでは「押し目買い系は前進検証で消える」が定説でした。その壁を初めて破ったのがこの検証です。距離ではなく重要度。同じ「ライン付近」でも、数値化する対象を1つずらしただけで、幻と本物が分かれました。
本体に足したら、リスクも一緒に増えた(研究74)
では、この高品質な部品を確定システム(当時のCore System v1.1.0)に統合したら全体が良くなるのか。それが研究74です。
| 指標 | 統合前(v1.1.0) | 統合後(候補) |
|---|---|---|
| 月利 | 0.58% | 0.71〜0.79% |
| PF | 1.39 | 1.45〜1.47 |
| シャープレシオ | 0.29 | 0.27〜0.29 |
| 最大DD | - | -10.3〜-11.4% |
| 最大損失失格率 | 1.9% | 3〜5% |
月利とPFは上がりました。でもシャープレシオは0.29から0.27〜0.29と改善せず、最大DDは許容ラインの10%を超過。プロップファーム(合格すると資金を貸してくれる業者)の失格リスクに直結する最大損失失格率も1.9%から3〜5%へ悪化し、モンテカルロ合格率(日次リターンを再標本化して合格確率を推定した値)も天井91%止まり。相関0.52が効いて、分散効果よりリスクの積み増しが勝ってしまう構図です。
要するに「月利が少し増える代わりに失格リスクも増える」トレードオフであって、厳密な改善ではない。確定システムはv1.1.0のまま据え置き、統合は見送りました。
数字だけ見ると敗北に見えますが、この検証の本当の収穫は別にあります。「裁量は勘ではなく論理。効いているラインは数値化でき、自由度の低い解釈可能な指標なら統計的に勝てる」という仮説が、実データで裏付けられたこと。レベル・エンジンは恒久的な検証基盤になり、以後あらゆる裁量手法をこの土俵で数値化して裁けるようになりました。

図: モンテカルロ検証のイメージ。統合候補は天井91%で、採用ラインに届きませんでした。
斜めのチャネルは、数字が拒否した(研究75)
最後に、教材のライン分析のもう1つの柱、チャネル(斜めのライン)です。水平線と同じ発想で、直近のスイング2点から線を引き、タッチと反発をスコア化。先読みがないことを検証した上で、前進検証にかけました。
| 設定 | 前進検証の通算 | 勝ち年 |
|---|---|---|
| 水平レベル(スコア20以上) | +42.2% | 5勝1敗 |
| チャネル(10以上) | -6.8% | 1勝5敗 |
| チャネル(20以上) | +0.3% | 2勝4敗 |
| 水平 OR チャネル併用 | +47.4% | 4勝2敗 |
水平レベルが過去の検証どおり機能した一方、チャネル単体はマイナス。スコアを20以上に厳しくすると今度は取引が54回まで枯れて、ほぼ無活動です。そして併用すると、勝ち年が5から4に落ちる。チャネル経由の低品質なエントリーが、全体の一貫性を削っていました。ルール決定期間ではPF1.49や2.20と良さげに見えていたのに、結局は選別されただけの蜃気楼だったわけです。
興味深いのは、教材自身が「チャネルは水平線より効き目が弱い」と書いていたこと。データはこの階層をそのまま裏付けました。チャネルは不採用。検証基盤が、効く裁量要素と効かない裁量要素を事実で選り分けられた瞬間です。
決算: 機械化できた裁量と、できなかった裁量
4本(+橋渡しの研究73)を通して見えた地図はこうです。
- トレンドフォローの核(ダウの転換+上位足一致)は機械化可能。ただしトレンドの再発見で、単体はPF1.05止まり
- 「ラインからの距離」は機械化しても効かない。「ラインの重要度」は機械化でき、PF1.63の本物になる
- 斜めチャネルは数値化しても不採用。教材の自己評価どおり水平線に劣る
- 本体への単純合算はトレードオフ(月利+でもDDと失格率が悪化)で見送り
つまり、裁量の上位構造(トレンド方向の判断と、効いている水平線の認識)は論理であり、コードに落ちる。一方で下位の微細な読み(どのラインを選ぶかの勘、斜め線、細かい執行判断)は、単純なルールに還元すると前進検証で崩れる。裁量手法は「全部本物」でも「全部幻」でもなく、要素分解して前進検証にかければ、本物の部品だけを取り出せるんです。
そして後日談を1つ。統合を見送られたよすが×レベルの組み合わせは、その後、単独の第2サテライト・システムとして確定し、いまは私の運用システムを構成するスリーブの1つとして実際に走っています。教材を丸ごと信じるのでも丸ごと捨てるのでもなく、検証を通じて部品として採用する。裁量手法の教材との、これが一番誠実な付き合い方だと思っています。
この記事は研究71/72/74/75を統合したものです。