
急落した株はいつ買うか、613銘柄21年分の日足で検証してみた
「週次で急落した株を金曜の引けで買う」という仮説の検証から始まった株の買い場探しの全記録。金曜は実は最悪の曜日で、正解は月曜でした。7本の検証(研究247〜253)を、失敗・一般化テスト・時価評価の精密化・生存者バイアスのストレスまで含めて1本にまとめます。
「週次で大きく下落した株を金曜の最後に買って、市場が冷静になった後の戻りで売ればいいのでは?」という仮説を検証してほしい、というリクエストから始まった一連の株研究の全記録です。結論を先に言うと、この仮説は棄却でした。ただし棄却のされ方が面白くて、急落を買うこと自体は正しいのに、金曜という曜日だけが間違っていた。そこから派生検証を7本(研究247〜253)積み重ねて、最終的に21年間・全ての相場局面でプラスだった買い方が1つ確定しました。
長い記事ですが、途中の失敗と回り道こそがこの検証の本体です。順番に行きます。

図: 最終形のエントリー実例。1週間で15%下落したMETAを週明けの引けで買い、5日SMAの回復で売っています。
検証の土俵と、2つの防波堤
対象は米国株の日足です。最初は429銘柄、最後は613銘柄まで広げ、期間は最長で2005年から2026年の約21年。コストは往復2セント+2bpを全トレードから差し引いています。
株のロング検証には、結論を狂わせる2大要因があります。1つは強気相場のかさ上げ。上げ相場では「いつ買っても勝てた」ように見えるので、同じ銘柄・同じ回数・同じ保有日数でデタラメな時点に買う「ランダム対照」200セットを常に並走させ、それに勝てない戦略はタイミングの価値なしと判定します。もう1つは後出しの罠。データを見てからルールを調整すると、過去にだけ効く偽物ができます。そこでデータを2005〜2017年(ルール決定用)と2018〜2026年(答え合わせ用=OOS)に分け、OOSはルールが固まるまで封印。棄却条件も検証前に文書化しました。
この2つの防波堤が、後の全ての結論の信頼性を支えます。
第1章: 金曜買いは25戦25敗だった(研究247)
まず元の仮説をそのまま測ります。週次リターンが-5%〜-15%を超えた銘柄を金曜引けで買う。出口は5種類(5日/10日の時間切り、5日移動平均の回復、下落幅の半値戻し、ボラが落ち着くまで待つ)、フィルタ有無も振って40変種です。
急落買いそのものは強かった。25変種が採用基準(N≥100、t≥2、PF≥1.15)を通過し、ほぼ全てがランダム対照に100%分位で圧勝します。ここまでは仮説どおり。しかし核心の対照が待っていました。同じ急落シグナルを、月曜から金曜までの各曜日で建てたらどうなるかです。
| 曜日 | 平均リターン(-5%急落×SMA5出口) |
|---|---|
| 月 | +106.9bp |
| 火 | +43.3bp |
| 水 | +44.5bp |
| 木 | +78.1bp |
| 金 | +14.8bp |
金曜は25変種すべてで最弱。統計的にも有意に他曜日に負けます(最悪の変種でWelch t=-5.3)。金曜の引けはまだ投げ売りの途中で、週末を跨いだ追撃(月曜のマージンコール)を正面から受けてしまう。「市場が冷静になってから買う」という仮説の発想自体は正しく、冷静になるのを待つ場所が1歩早かったんです。
事前登録していた反証条件が成立したので、仮説は棄却。おまけの発見として、「ボラが冷静になるまで待つ」出口は5種類の中で最弱でした。戻りの主要部は、冷静になる前に出てしまいます。
第2章: 月曜に変えたら、今度は本当だった(研究248)
曜日対照が指した「月曜最強」を、独立の仮説として登録し直しました。ここで正直に書いておくべきことがあります。この修正案は検証データを見た後に思いついたものです。過去に「符号を反転したら勝てそう」という派生仮説が、未使用データで見事に散った前例があります(指数のギャップ順張り)。だからこそ判定基準を先に文書で固定し、封印していたOOS 8年半(コロナ暴落・2022年ベア込み)を裁定者にしました。
結果は生存です。
- IS: 24変種中23がゲート通過。全曜日で建てた場合との比較でも、月曜集中の付加価値が全変種で正
- OOS: 代表形(5日リターン-10%×週初引け買い×SMA5回復売り)が1トレード+120.4bp、t=+9.1、PF 1.42
- ランダム対照に100%分位で勝ち、全曜日プールより+41bp良い
事前登録した4つの棄却条件を全てくぐり抜け、この探索枠組みで初のOOS生存者になりました。なぜ月曜なのかの構造も明快です。株の急落は金曜の引けにかけてパニックが凝縮し、週末に情報が消化され、月曜に最後の投げ(フォロースルー)が出て、そこからが回帰の本番。売りが出尽くした後の最初の引けが月曜なんです。
同時に走らせた姉妹仮説2本は棄却でした。出口を半値戻しに変える案はペア差t=1.48で有意にならず(出口の改良はこのプロジェクトで通算7連敗)。急落から市場全体の下落分を引き算して「銘柄固有のパニックだけ買う」案は、素の急落買いに30/31変種で負けました。ここから逆説的な構造が確定します。市場全体が連れ安している時ほど、戻りは強い。平均回帰の主収益源は市場・セクター単位のパニックの回帰であり、市場成分を引くと戻りの弱い残差だけが残るんです。
第3章: 磨き込みと、効かなかった改良(研究249)
生き残った月曜買いを3方向から磨きました。
指値エントリー化は見送り。別の株システムで唯一の当たり軸だった「翌日に安値側の指値を置く」を移植すると、1トレードの質は上がる(OOSで+209bp vs 成行+120bp)のに約定数が4割に減り、ルール決定期間のポートフォリオ月利は劣化(+3.78% vs +4.94%)。期間によって勝者が入れ替わるため、規律に従い成行を維持しました。同じ改良でも載せる骨格で答えが変わる好例です。
レジーム別は全勝。金融危機(2005-09)月利+3.79%/PF 1.65、量的緩和期+5.44%/PF 1.85、低ボラ期+5.15%/PF 1.70、コロナ+ベア+2.54%/PF 1.30、現行+4.87%/PF 1.64。最弱の2020-22でもプラスで、高ボラ期専用の一発屋ではありません。
既存システムとの相性が予想外の収穫でした。確定済みの株システム「MRコア改」(上昇トレンド内のRSI2押し目を指値買い)と重複を測ると、MRコア改とは、以前の検証で21年分の審査を通した私のもう1つの株システムで、「200日線より上にある銘柄のRSI(2)が10を切る押し目を、翌日2%下の指値で買う」ルールです。

図: 押し目買い(MRコア改の骨格)のイメージ。売られすぎからの反発を狙う点は急落買いと同じでも、獲物が違うことがこの後わかります。
同日にシグナルが重なるのは13%だけ、月次リターンの相関も+0.2〜0.3。片や急落の瞬発回帰、片や秩序だった押し目と、似て非なる獲物を追っていました。これが後の合成の伏線になります。
第4章: 他の市場では通用しない(研究250)
このエッジはどこまで一般化するのか。まずEAが実運用しているFX・金属・株価指数の26銘柄に同じルールを移植しました。結果は3クラスとも棄却です。
| クラス | 最良変種のt値 | PF | 判定 |
|---|---|---|---|
| FX(18ペア) | +0.17 | 1.04 | 回帰なし(事前予想どおり) |
| 指数(6銘柄) | +1.37 | 1.39 | 方向は正だが検定力不足 |
| 金属(2銘柄) | +0.22 | 1.07 | 否 |
この転移失敗が、逆にエッジの正体を照らしました。月曜急落買いの収益源は、613銘柄がバラバラのタイミングで起こす銘柄固有のパニックを、横断的に数百回拾えることそのものです。急落の回帰という現象は指数にも薄く存在しますが、6指数は相関が高く急落が同時発生するため、実効的なイベント数が時間軸の分しか稼げず、統計も配分機会も足りません。株のエッジは株のものでした。
第5章: 別の株184銘柄では通用した(研究251/252)
次に株の中での一般化です。既存パネル(大型グロース・ミーム中心)と1銘柄も重複しない別セグメント184銘柄(素材・銀行・生活必需品・公益・REIT・運輸)を新規取得し、パラメータ選択なしで確定形を流しました。
エッジは健在でした。OOSで+85.8bp、t=+3.39、PF 1.36、ランダム対照超過+74bp(100%分位)。銘柄選択の産物ではないことが確認できます。一方でポートフォリオ月利は+1.00%(PF 1.93)止まり。ディフェンシブ銘柄は急落自体が3分の1しか起きないので、シグナルが痩せるんです。「エッジの真贋」と「機会の量」は別の問題、という綺麗な分解が取れました。
なら合算です。両ユニバース613銘柄で測り直すと、機会の横断分散が厚くなり、単独ユニバースでは統計が立たなかった深い閾値-15%までOOS t=+7.5で成立するようになりました。ポートフォリオ(1銘柄10%×最大10銘柄・現物)は全期間で月利+4.81%/PF 1.67。
第6章: 数字を現実に寄せる(研究253)
最後に精密化を3本。ここまでのポートフォリオ計算は「決済時にしか損益を反映しない」簡易版でした。建玉を毎日終値で時価評価する精密エンジンに切り替えます。
| 形 | 月利 | PF | 最大DD | Sharpe | 最悪月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 月曜急落買い 単体 | +4.66% | 1.67 | -41.8% | 1.46 | -13.6% |
| MRコア改 単体 | +3.13% | 1.47 | -44.2% | 1.40 | -25.5% |
| 50/50合成 | +4.06% | 1.51 | -17.9% | 1.79 | -13.8% |
月利はほぼ不変で、真の最大DDは-32.3%ではなく-41.8%でした。含み損の谷は簡易計算では見えません。約10ポイント甘く見積もっていたことを白状します。

図: ドローダウンの見方。上段の赤い影が「最高値からの沈み」で、時価評価にするとこの谷が正しく(深く)測れるようになります。
そして精密化で合成の価値が際立ちました。急落買いのDDの谷はコロナ期、MRコア改の谷は金融危機期と時期がズレているため、相関+0.25の2つを半々で持って月次リバランスするだけでDDが-18%まで縮む。推奨形は合成で確定です。
頑健性も2本。コストを2倍(往復4セント+4bp)にしても月利+3.10%/PF 1.42で存続。そして一番大事な生存者バイアスのストレスです。このパネルには「2026年に生き残っている銘柄」しかいないので、急落がそのまま上場廃止までいく最悪ケースがデータに存在しません。そこでエントリーの一定割合が上場廃止級の損失を食うと仮定して感度を測りました。
| 想定 | 月利 | PF |
|---|---|---|
| 基準(バイアス無視) | +4.66% | 1.67 |
| エントリーの0.5%が半値 | +3.90% | 1.53 |
| 1%が全損 | +1.71% | 1.23 |
| 2%が全損 | -1.30%(破綻) | 0.96 |
損益分岐は「エントリーの1.5〜2%が全損」の水準。保有3.8日の大型・中型株が数日で全損する実確率(大型株の倒産上場廃止は年0.1〜0.3%)を考えると、現実的な期待は月利+3.5〜4.5%のバンドと読んでいます。
最終形と、どこまで信じるか
確定形: 613銘柄を監視し、5日リターン-10%以下の銘柄を週初営業日(通常月曜)の引けで買う(1銘柄=資金10%・最大10銘柄)。5日移動平均を上回った引けで売る(最大10日)。 推奨運用形: 上記とMRコア改の50/50合成(月次リバランス)= 月利+4.06%/PF 1.51/最大DD-17.9%。
信頼できる根拠は、事前登録の全関門通過、両期間でランダム対照に100%分位、別ユニバースでの再現、21年・全5レジームでプラス、コスト2倍耐性です。割り引くべき点は、生存者バイアス(上の感度表)、OOSでの減衰(1トレード+211bp→+117bp、今後も痩せ得る)、そして実弾での執行検証が未実施なこと。この数字を将来の約束として読まないでください。
出発点の「金曜買い」は間違いでした。でも、間違いの理由を曜日対照という形で正確に測ったから、1日ずらすだけの正解に辿り着けた。仮説は外れてもいい。外れ方を正確に測れる仕組みだけが、次の正解を拾う。7本の検証で一番持ち帰ってほしいのは、この一点です。