
AIが学んだロット調整はデタラメ設定に負けた、賢い工夫7連敗の記録
機械学習・強化学習・安全資産ヘッジ・効率比フィルタ・強度連動サイジング・相関監視・経路効率。ロット調整とフィルタを賢くする試みを8本の検証で潰していった系譜のまとめ。ほぼ全部が単純な仕組みに勝てず、最後に残ったのは残高と変動率を見るだけのオーバーレイだった。その理由まで。
AIに真面目に学習させたロット調整の月利は+0.72%。その学習結果をわざとシャッフルしたデタラメ設定は+1.57%でした。賢くしたはずの仕組みが、賢さを壊したものに負けたんです。
この記事は、リスク管理を「賢く」しようとした8つの検証を1本の系譜にまとめたものです。機械学習にリスクを予測させる、強化学習にレバレッジを選ばせる、暴落時の安全資産フライトを取りに行く、トレンドの質でトレードを選別する、強いラインに厚く張る、通貨の相関を監視して手を緩める。結論から言うと、ほぼ全部効きませんでした。生き残ったのは、口座残高の曲線を眺めて取引量を半分にするだけの、一番単純な仕組みです。
はじめに: このブログと、読むのに必要な言葉
初めての方向けに。このブログは、私(個人)がFXの自動売買プログラム(EA)を自作し、手法を統計検証して勝敗問わず記録している検証日記です。文中の「研究N」は私の検証ノートの通し番号。検証にはFX・金銀・株価指数の実データ約11年分を使っています。
言葉を4つだけ先に。PF(プロフィットファクター)は総利益÷総損失で、1を超えると黒字。DD(ドローダウン)は資産が最高値からどれだけ下がったかで、登山でいう「どれだけ下りに転じたか」です。オーバーレイは、売買ロジック本体には触らず、上から取引量だけを調整する層のこと。vol-targetは直近の値動きの大きさに応じてロットを自動調整する、オーバーレイの代表格です。

図: ドローダウンのイメージ。今回の系譜は全て「この谷を賢く浅くできないか」という試みでした。
出発点: 残高が沈んだら半分にする(研究26)
系譜の起点はとても素朴な仕組みです。口座残高の曲線が自身の60日移動平均線を下回ったら、取引量を半分にする。エクイティ・オーバーレイと呼ばれる古典的な手法で、要するに「調子が悪い時期は手を緩める」だけです。
金と円クロス4ペア(XAUUSD・USDJPY・GBPJPY・EURJPY・CHFJPY)の1時間足トレンドフォローに載せて、1トレードあたり資金の0.4%のリスクで比較しました。
| 指標 | フィルタなし | フィルタあり |
|---|---|---|
| 最大DD | -17.4% | -15.2% |
| 月利 | 0.99% | 0.76% |
| PF | 1.35 | 1.28 |
DDは約13%浅くなりましたが、月利も比例して減りました。移動平均のラグで、本来は利益を伸ばすべき回復局面まで削ってしまうためです。リスクを0.6%に上げても月利1.07%でDD-22%と伸びは限定的。この設定でプロップファームの審査を模したMC(モンテカルロ合格率。日次リターンを再標本化して合格確率を推定した値)を測ると、ステップ1で77%、全体で62%でした。
つまりこの仕組みは魔法ではなく、リターンを差し出してDDを買う正直な取引です。到達点も見えました。DD10%以下の安全運転で月利0.5%前後、DD15%程度まで攻めて1%前後。ここが価格データだけで引き出せる水準の天井に近い、というのがこの時点の結論でした。
じゃあもっと賢くすれば、この交換レートを超えられるのでは?と思いますよね。私も思いました。ここからが本編です。
機械学習に「危ない時期」を予測させた(研究100)
まず機械学習(LightGBM)です。相場の方向ではなく、先行きのリスクを予測させました。直近のボラティリティやモメンタム、DD状態、米国株指数との距離を材料に、次の20日間の変動率を予測してレバレッジを調整する仕組みです。
2019〜2025年のデータでの初回結果は月利3.12%、DD10%。従来のvol-target+株式フィルタ構成(月利1.16%)の2.7倍で、出来すぎなくらい優秀に見えました。
出来すぎた数字は疑うのが検証の作法です。まず期間を2018年まで広げると月利は1.64%に縮小。さらにプラセボ検証をかけました。予測値をランダムにシャッフルし、情報価値ゼロのまま同じ分布でレバレッジを動かすテストです。
| 検証内容 | 月利 |
|---|---|
| 機械学習の予測でレバ調整 | 1.64% |
| プラセボ(予測をシャッフル) | 1.44% |
| 予測の純粋な上乗せ分 | 0.20% |
見かけの優位の大半は「たまたまそういうレバレッジ分布だった」ことの副産物で、予測が生んだ上乗せは月0.20%。ノイズの域です。真因もはっきりしています。トレンドフォローでは、直近の変動率がすでに将来の変動率をほぼ言い当てているんです。機械学習が学ぶ余地が、最初からほとんど残っていませんでした。

図: 研究100も105もウォークフォワード(前進検証)で実施。それでもプラセボとの比較まではやらないと、見かけの優位に騙されるところでした。
強化学習に任せたら、デタラメに負けた(研究105)
機械学習の敗因を踏まえ、次は条件を絞った強化学習(contextual bandit)で再挑戦しました。相場の状態をボラティリティ3分位×株式フィルタのオン/オフ×DD状態に区分けし、それぞれの状態で最適なレバレッジを0.5/1.0/1.5から選ばせる、自由度の低い設計です。
結果が冒頭の数字です。
| 手法 | 月利 | PF |
|---|---|---|
| 強化学習が選んだレバ | +0.72% | 1.15 |
| 状態とレバの対応をシャッフル | +1.57% | 1.32 |
AIはDD時のペナルティを重く学習した結果、ほぼ全ての状態でレバ0.5に張り付く退化を起こしました。そして学習した対応関係をわざと壊したデタラメ設定の方が、月利もPFも上。学習が拾ったのは相場の構造ではなくノイズだった、という動かぬ証拠です。
報酬設計をいじれば数字は変わります。でも、望む結果が出るまで設計を調整する行為そのものが過去データへの過剰適合です。ここでAIにサイジングを学ばせる路線は打ち切りました。vol-targetと株式フィルタという手作りの単純な組み合わせが、AIが学ぼうとした構造をすでに捉えきっていたわけです。
暴落で稼ぐヘッジも作れなかった(研究104)
サイジングの次は、賢いヘッジです。運用中のEAは株式市場のリスクオフ(市場が混乱して株が売られる局面)が苦手で、そこでは守りに入ります。ならばその隙間で、昔ながらの「安全資産への逃避」を取りに行けないか。リスクオフで円を買い(クロス円のショート)、金を持つヘッジを組み込んでみました。
結果、円買いはリスクオフの日でも利益になりませんでした。2021年から2026年の相場では、日銀の介入があっても金利差で円安が進む場面が多く、「リスクオフ=円買い」という構図自体が消えていたんです。金は確かに堅調で、リスクオン時の日次+0.045%に対しリスクオフ時は+0.066%と伸びます。ただ金はすでに戦略に組み込み済みで、安全資産をまとめたバスケットもリスクオフ時はほぼフラットでした。
もう一工夫だけ粘りました。金はリスクオフの恩恵を受けるのだから、株式悪化時にポジションを縮小するルールから金だけ除外してみる。月利は+0.85%から+0.87%へ微増、その代わりDDが-9.6%から-9.8%へ拡大し、効率を示すCalmar比率(年利÷最大DD)は1.06のまま動きません。クライシス・アルファ(危機で稼ぐ収益)は、今の相場には存在しないと結論づけ、システムは現状維持としました。
フィルタ側も同じだった: 銀とトレンドの質(研究110)
サイジングだけでなく、トレードを賢く選別するフィルタ側も検証しました。
まず銀(XAGUSD)のトレンドフォロー追加。ブレイクアウト手法で通算+5.8%、ただし勝ち年は6年中2年だけ。ATRキャンドル版に至っては6年中1年しか勝てず-33%でした。銀と金の相関は0.44と意外に低く、金のようなクリーンなトレンドを銀は持っていません。金属なら何でもトレンドが出るわけではなく、核への追加は不可と判断しました。
次にカウフマン効率比(ER)。価格がどれだけ一直線に動いたかを測る指標で、効率的なトレンドだけを取る質フィルタとして使います。素のブレイクアウトの勝ち年6年中3年が、ERフィルタで6年中3〜4年。改善はしましたが限界的で、目標の6年中5年には届きません。すでに最適化が進んだシステムに、後付けの質フィルタは劇的な改善をもたらしませんでした。指標のコード自体は有用なので資産として残し、採用は見送りです。
強いラインに厚く張る、は逆効果(研究114)
「強い節目のラインほど勝率が高いはず。ならそこでリスクを上げれば利益を最大化できるのでは?」という仮説も測りました。エントリー時にレベル強度(節目としての強さ)を後知恵なしで数値化し、強度4分位ごとの成績を比較します。
トレンドのブレイク手法(1,898トレード)では、強度と勝率にほぼ相関なし。レジスタンス側の勝率は弱い順に33→38→37→35%で、サポート側はむしろ弱いラインの方が高PFでした。抜けた先が空いている方が走りやすい、という過去の検証とも一致します。
レベルで買う押し目手法(914トレード)では、もっと面白い形が出ました。
| 強度グループ | PF |
|---|---|
| Q1(弱) | 0.72 |
| Q2(中) | 1.59 |
| Q4(強) | 1.24 |
最良は中程度のQ2(勝率38%)で、弱すぎても強すぎても劣化する逆U字です。つまりレベル強度は「強いほど儲かる」連続信号ではなく、偽物のラインを弾く足切りとして機能している。強度に比例してリスクを増やすと、一番おいしいQ2を軽くして劣化するQ4を重くするので、むしろ逆効果です。すでに組み込んである足切り(最低スコア)だけで、この指標の価値は取り尽くしていました。
相関が高い時に手を緩める、も裏目(研究117)
最後は通貨間の相関です。運用中の円クロスたちが一斉に逆行する「相関ドローダウン」がDDの正体なら、ペア間相関が高い時にレバレッジを縮めればDDを抑えられるはず。相関に応じてレバを0.6〜1.4倍に調整するオーバーレイを、後知恵なしで載せました。
| 指標 | 修正前 | 相関オーバーレイあり |
|---|---|---|
| 全期間最大DD | -6.1% | -7.4% |
| リターン/DD比 | 0.29 | 0.24 |
| 月利 | 不変 | 不変 |
DDはむしろ深くなりました。M1日中(1分足で日中の口座推移を再構築した最悪日次損失)が3.65%から3.23%へわずかに改善しただけです。
敗因は相関という指標の性質にあります。相関は「揃って動いている」ことしか教えてくれず、それが上昇か下落かを区別しません。トレンドフォローにとって、ペアが揃って上昇する局面は最大の稼ぎ時。相関の大きさでレバを絞ると、悪い同時下落と一緒に良い同時上昇まで削ってしまいます。DDを生むのは相関の大きさではなく下方向の同時逆行で、そちらは方向を見る株式フィルタ(US500)がすでに捉えていました。
在庫一掃: 価格の「歩き方」で選別する最後の2案(研究159)
系譜の締めくくりは、価格内テクニカルの最後の在庫でした。「価格の動きだけで新しい情報を拾えるか」という観点で残っていた2案、GK経路効率(バー内の値動きに対して終値がどれだけ効率的に伸びたかの比)とバー経路効率(始値と終値の幅が高値安値の幅に占める割合)です。効率的に一直線に動くトレンドだけを取る質フィルタとして、トレンド核に3段階のしきい値で組み込み、IS(開発用データ)とOOS(未知のデータ)の両方で測りました。
| 手法 | PF | 月利 |
|---|---|---|
| 基準モデル | 1.51 | +0.401% |
| バー経路効率(0.45) | 1.59 | +0.302% |
| バー経路効率(0.47) | 1.48 | +0.174% |
| GK系指標 | 1.31〜1.43 | 低下傾向 |
一見PFが1.59へ改善した行がありますが、同時に月利が約25%削られています。GK系に至ってはPFまで低下。ISでも方向は同じでした。構造は研究110のカウフマンERとまったく同じです。質フィルタは弱いトレードだけを狙い撃ちできず、利益の本体も比例的に削ってしまう。すでに最適化されたシステムへの後付けフィルタには限界がありました。
この検証をもって、価格データのみを使った新規案のリストは全て消化完了。価格内テクニカルの未探索領域は、名実ともに出尽くしたと考えています。
決算: なぜ単純な仕組みだけが残ったのか
系譜を並べます。
| 検証 | 賢くしようとしたこと | 判定 |
|---|---|---|
| 研究26 | 残高を見て取引量を半減 | DD-13%と引き換えに月利減。正直な交換として成立 |
| 研究100 | MLでリスク予測サイジング | 上乗せ月0.20%=プラセボと同等 |
| 研究105 | 強化学習でレバ選択 | シャッフルしたデタラメに敗北 |
| 研究104 | リスクオフで安全資産に逃避 | 円は逃避先の役割を喪失、Calmar1.06のまま |
| 研究110 | 銀の追加/効率比フィルタ | 両方非採用 |
| 研究114 | ライン強度に連動した賭け金 | 逆U字で逆効果、足切りが正解 |
| 研究117 | 相関が高い時にレバ縮小 | DD悪化、方向を見ない指標は無力 |
| 研究159 | 経路効率で質の高いトレンドだけ選別 | 月利-25%、価格内の新規案はこれで在庫切れ |
7連敗の理由は4つに集約できます。1つ、直近の変動率が将来の変動率のほぼ最良の予測で、予測モデルの出る幕がない。2つ、リスクで本当に大事なのは方向であり、相関や強度のような方向を見ない指標は良い局面まで削る。3つ、質の指標は足切りとしては働くが、量の目盛りにはならない。4つ、「リスクオフ=円買い」のような昔の相場の常識は、レジームが変われば消えている。
そして生き残った側を見ると、全部この裏返しです。vol-targetは直近変動率をそのまま使い、株式フィルタは方向(リスクオフ)を見て、レベルスコアは足切りにだけ使う。運用中のシステムのリスク管理は、この単純な3点セットのままです。
もう1つの収穫は検証手順そのもの。サイジングの上に重ねる工夫はノイズが紛れやすく、単一期間の成績比較では研究100の「2.7倍」のような幻が平気で出ます。以来、ロット調整系の検証にはプラセボ(シャッフル)と複数期間の突き合わせを必須の関門にしました。賢い仕組みを試すこと自体は無駄ではなかったんです。デタラメに負けたという事実が、単純な仕組みへの信頼を数字で裏打ちしてくれたので。
この記事は研究26/100/104/105/110/114/117/159を統合したものです。