優位性なしと切り捨てた買いのトレンドが前進検証+52.6%で本物だった

トレンド · 1 min

レジーム切替もクロスセクション・モメンタムも80通りの全数スキャンも全滅。データを掃除し、弱い優位性を束ね、それでも届かなかった先で検証設計の誤りに気づき、ロングオンリーのトレンドフォローだけが本物だと訂正するまでの転換期7研究の記録。

「FXの価格データに、標準的なテクニカル指標で取れる優位性は無い」。一度は検証ノートにそう結論を書きました。ところがこの結論、後に自分の手で訂正することになります。ロングオンリー(買い専用)のトレンドフォローだけは本物で、前進検証で通算+52.6%。見逃していた原因は市場ではなく、私の検証設計のほうにあったんです。

この記事は、私の検証ノートの転換期にあたる7本(研究13/14/15/19/20/23/25)を1つの物語にまとめたものです。標準テクニカルを次々にスキャンしては棄却し、データの罠を踏み、弱い候補を束ね、最後に結論の訂正へ辿り着くまでの記録。負けの数字も全部そのまま載せます。

はじめに: このブログと、読むのに必要な前提

初めての方向けに。このブログは、私(個人)がFXの自動売買プログラム(EA)を自作し、手法を統計検証して勝敗問わず記録している検証日記です。文中の「研究N」は私の検証ノートの通し番号。目標はプロップファーム(自己資金でなく業者の資金を運用し、利益の一部を受け取る仕組み)の審査に合格し、継続的に出金できるEAを作ることです。

用語を先に4つだけ。PF(プロフィットファクター)は総利益÷総損失で、1を超えると黒字。IS/OOSはデータを「ルールを決める期間(イン・サンプル)」と「答え合わせ専用の未使用期間(アウト・オブ・サンプル)」に分けること。ウォークフォワード(前進検証)は、過去のデータだけでルールや設定を決めて、まだ見ていない次の期間で試す手続きの繰り返しです。後出しジャンケンを防ぐ仕組みだと思ってください。DDはドローダウンで、資産の山からの下落率です。

図: ウォークフォワード(前進検証)の考え方。過去でルールを決め、まだ見ていない未来で試します(後出しを防ぐ)。

図: この記事の全研究で使う前進検証の考え方。この仕組みが、後半で「本物」と「後知恵」を見分ける主役になります。

研究13: 相場つきで戦略を切り替える案の全滅

出発点は、多くの人が一度は考えるアイデアでした。相場には流れが続く「トレンド局面」と、行ったり来たりの「レンジ局面」がある。ならばADX(トレンドの強さを測る指標)で局面を判定し、トレンド局面では順張り、レンジ局面では逆張りに切り替えれば、両方のいいとこ取りができるのでは。

ウォークフォワードで測った結果がこれです。

時間軸通算損益勝ち年数
D1(日足)-9.5%3/7年
H4(4時間足)-29.4%2/7年

どちらの時間軸でも資産を減らしました。ここで得た教訓は単純で、優位性のない部品をどれだけ組み合わせても優位性は生まれない、ということです。順張り単体も逆張り単体もダメだったものを、切り替えスイッチを付けたからといって勝てるようにはならなかった。

この時点で、標準的なテクニカル(順張り・逆張り・その複合)はほぼ試し尽くしていました。残る筋の良い価格ベースの仮説は1枚だけ。通貨間の相対的な強弱を使うクロスセクション・モメンタムです。

研究14: 最後の手札も沈み、一度「限界」と書いた

クロスセクション・モメンタムは「強い通貨を買い、弱い通貨を売る」という手法で、FXでは学術的な裏付けもある、それまでとは別のメカニズムです。これを最後の価格ベース検証と位置づけて測りました。

結果は全滅でした。強弱を判定する期間を固定した全期間検証は、どの設定でも通算-11%から-40%のマイナス。ウォークフォワードでも通算-8.6%です。真因を覗くと、円が絡むペアは相対強弱の視点で見ても「勢いが続く」より「元の水準に戻る」平均回帰の動きが目立ち、勢いを追う戦略と根本的に相性が悪いのでした。

ここで私は検証ノートに総括を書きます。手元の価格データと標準テクニカルでは、プロップの継続出金に足る頑健な優位性は見つからない。これ以上の変種探しはデータ漁り(偶然の当たり拾い)になる、と。後から振り返ると、この総括は半分正しくて半分間違っていました。

研究15: 混ぜて薄めていたことに気づき、全数スキャンへ

転機は自分の検証設計への疑いから来ました。それまで私は円建て6ペアをまとめて(プールして)検証していたんです。これだと、特定の通貨だけに存在する尖った優位性が、他の通貨の凡庸な成績と平均されて消えてしまう。

そこで方針を変え、20通貨ペア×4手法を日足で総当たりする全数スキャンを走らせました。個別に見ると、有望な候補が浮かび上がります。

通貨ペア×手法OOS通算勝ち年年平均
XAUUSD(金)×ドンチャン+21.8%5/7年+3.1%
AUDJPY×ドンチャン+12.6%5/7年-
GBPNZD×RSI+9.4%6/7年-

図: ブレイクアウトのエントリー例(XAUUSD 日足・実データ)。直近の高値を上抜けたところで買います。

図: ドンチャンチャネルの仕掛けのイメージ。過去一定期間の高値を抜けた方向に順張りします。

筆頭は金×ドンチャンチャネルでした。金は古くからトレンドが出やすい市場として知られており、統計とファンダメンタルズの説明が一致します。ただし浮かれる前に釘を刺しておく必要がありました。80通りも試すと、実力ゼロでも「たまたま7年中5年勝つ」組み合わせが約22%の確率で紛れ込みます。多重検定の罠です。だから生き残りはあくまで候補で、統計的な一貫性・ファンダの裏付け・パラメータの頑健性の3点で選別を続けることにしました。

研究19: データを掃除したら金の優位性が4分の1に縮んだ

その選別の途中で、データ品質の問題が発覚します。直近2026年の金の価格データに異常があり、検証結果を膨らませていた疑いが出たんです。そこで異常バーを検出・除去するクリーニング層を検証基盤に組み込み、クリーンなデータで全部を測り直しました。

金×ドンチャンの成績は+21.8%から+5.3%(年換算0.8%)へ縮小。あの好成績の大半は、壊れたデータの急騰に乗っただけのものでした。クリーンデータでの上位はこうなります。

通貨ペア×手法通算勝ち年
USDJPY×トレンド+ADX+10.5%6/7年
EURJPY×RSI+9.2%5/7年
GBPNZD×RSI+8.7%6/7年

いずれも年+1%から1.6%程度。80通り試した中の上位ですから、偶然の域を出ない可能性が高い数字です。プロップの利益目標+8%には全く届きません。ここで収穫と呼べるのは、データ品質まで含めて見せかけの優位性を多段階でふるい落とせる検証基盤が残ったことだけでした。

図: 逆張り(RSI)のシグナル例(EURUSD 日足・実データ)。RSIが売られすぎ圏に入った反発を狙います。

図: スキャン上位に何度も顔を出したRSI逆張りのイメージ。売られすぎの反発を狙う買い方です。

研究20: 弱い優位性を束ねたら、数字は綺麗に見えた

強い単体が無いなら、弱いものを束ねればどうか。USDJPYとEURAUDにトレンド+ADX、EURJPY・GBPNZD・GBPUSD・XAGUSD(銀)にRSI逆張り。通貨も手法もばらした6成分を、1トレードあたりリスク0.5%ずつで同時に走らせる構成です。成分間の日次相関は平均0.00、つまりほぼ無相関でした。

2016年から2024年のクリーンデータでの成績です。

指標数値
通算リターン+17.7%(年およそ2%)
最大DD-6.3%
PF1.27
シャープ・レシオ0.69
勝ち年6/7年

派手さはないものの、DDの浅さは魅力でした。最大-10%の損失制限があるプロップ環境でも余裕がある。無相関のものを束ねてDDを抑える構造自体は、今でも本物だと考えています。

ただ、この時点で自分でも課題に挙げていた不安が後に的中します。この構成は「過去に勝った通貨と手法」を後から選んで組んだものでした。構成の選択まで含めて未来のデータで試す完全な前進検証にかけたところ、この好成績は再現されず、後知恵の産物だったことが確定します。分散でDDを抑えても、持続する正の期待値が無ければ意味がない。振り出しに戻りました。

研究23: 訂正します、ロングオンリーのトレンドだけは本物だった

ここがこの系譜のクライマックスです。並行して進めていた別トラックの検証に、実際に機能しているロング専用戦略がありました。それに学んで、H1(1時間足)のドンチャンチャネルとSMA150(150期間の単純移動平均線)を組み合わせた買い専用のブレイクアウト戦略を実装し、構成の選択まで含めた前進検証、つまり研究20を沈めたのと同じ最も厳しい物差しにかけてみたんです。

項目結果
通算成績+52.6%
勝ち年4/6年(2020年+10.9%、2022年+19.8%、2023年+9.0%、2024年+22.1%)
負け年2年(各-4.6%)

選抜された通貨ペアはXAUUSD・USDJPY・GBPJPY・EURJPY・CHFJPYの5つに収束しました。金と円絡みのペア、つまり長期の価格の傾き(ドリフト)がはっきりした市場です。

この結果が意味することは2つあります。1つは、私の検証ツールが正しく機能していること。既知の本物を前進検証でちゃんと再現できました。もう1つが本題で、ロングオンリーのトレンドフォローは本物の優位性だったということです。

では、なぜ以前の私は「優位性なし」と結論したのか。市場が変わったのではなく、検証設計が本物を隠していました。具体的には3つです。買いと売りを対称に扱い、上方向のドリフトを打ち消していたこと。トレンドフィルタを入れていなかったこと。そして通貨をプールして、効く市場の成績を効かない市場で希釈していたこと。「無い」という否定の結論も、設計が狭ければ平気で間違える。この訂正が、以後の私の検証姿勢を決めました。

研究25: 第2の柱を探して、全候補が沈んだ

本物が1本見つかると、次は相関の低い2本目が欲しくなります。柱が2本あれば片方の不調をもう片方が支え、DDを抑えられるからです。候補を全部検証しました。

手法OOSIS
A: ORBイントラデイ(M30)-96%-94%
B: レンジ逆張り(USD系H1)-8.9%-10.4%(PF0.94)
C: ショート・スリーブ(トレンドH1)+8.0%-48.5%

Aは朝の値幅ブレイクを30分足で狙う高頻度手法で、スプレッド(売買コスト)に食い尽くされて壊滅。Bは核のトレンド戦略との相関が-0.07とほぼ無相関で、合算するとDDは確かに改善しました。でも単体の期待値がマイナスでは、ただ別の場所で負けているだけです。Cの売り専用トレンドはOOSでこそ+8.0%でしたが、ISの上昇相場で-48.5%と壊滅しており、信用できません。

結論は明快でした。FXの価格データから取れる本物の優位性は、ロングオンリーのトレンドフォロー一択。本当の分散を求めるなら金利差(キャリー)のような価格以外の要素に目を向ける必要があり、これは別トラックの検証結果とも独立に一致しました。当面の最善は2本目探しではなく、1本目の最大化。有効証拠金が60日移動平均を割ったらロットを半分にする制御でDDを抑え、その分リスクを上乗せする方式です。この方式は別トラックの検証で月利が2倍になった実績がありました。

この系譜が残したもの

7研究の決算表です。

研究検証したもの結果
13レジーム切替(順張り×逆張り)棄却(D1 -9.5%/H4 -29.4%)
14クロスセクション・モメンタム棄却(前進検証-8.6%)
1520通貨×4手法の全数スキャン候補は出たが多重検定の疑い
19クリーンデータで再スキャン金+21.8%→+5.3%、上位も偶然の域
20無相関の弱優位性6成分の束PF1.27だが後に後知恵と判明
23ロングオンリーのトレンド本物(前進検証+52.6%)。結論を訂正
25第2エッジ候補の全検証全滅。1本目の最大化へ

学びを3つに絞ります。1つ、優位性のない部品は何個組み合わせても優位性にならない。切り替えでも束ねでも同じでした。2つ、敵は市場だけではない。壊れたデータと多重検定は、何度でも偽物の当たりを見せてきます。3つ、これが一番大事なのですが、「優位性が無い」という結論すら検証設計しだいで間違える。売買の対称性・プール検証・フィルタの欠如は、本物を隠す設計でした。

だから私は今も「これで全部試した、もう無い」と断定しないようにしています。この後の検証で、このロング・トレンド核は複数のスリーブ(部品戦略)を持つシステムへ育っていきますが、その土台はこの転換期に据えられました。棄却の山の一番奥に、訂正が1つ埋まっていた。それがこの7研究の物語です。

この記事は研究13/14/15/19/20/23/25を統合したものです。