もっと稼ぐ道を3本測って、最後に残ったのは7万円の保険だった

リスク管理 · 1 min

金を増やす・条件の緩い新プランに乗る・口座を並行に増やす。リターン拡大の3つの道を破綻確率まで測った4本の検証。2本は裾とルールが拒否し、残った1本の成否は『参加費1回分の予備費』が握っていました。24ヶ月シミュレーションの分布の形まで全部見せます。

このプロジェクトには、動かせない結論が1つあります。エッジ(システムの優位性)はこれ以上増えない。価格の中の情報は探索し尽くし、レバレッジも月次2.1%で飽和することが分かっています。それでも稼ぎを増やしたいなら、残る梃子は資本の側にしかありません。

候補は3本ありました。①勝ち続けている金の配分を増やす、②プロップ会社が出した条件の緩い新プランに乗り換える、③口座そのものを並行に増やす。4本の検証(研究221/224/231/243)で、3本とも破綻確率という一番厳しい物差しまで当てて測りました。結論から言うと、生き残ったのは③だけ。しかもその成否を分けたのは、たった7万円の使い方でした。

はじめに: このブログと、前提の説明

初めての方向けに。このブログは、私(個人)がFXの自動売買プログラム(EA)を自作し、統計検証の記録を勝敗問わず公開している検証日記です。文中の「研究N」は検証ノートの通し番号。

前提を2つ。1つ目、私のEAはプロップファームの口座で稼働しています。審査に合格すると会社の資金(1,000万円規模)で取引でき、利益の80%を受け取れる代わりに、日次-5%・累計-10%の損失で即失格という仕組みです。参加費は69,800円。2つ目、システムの中身はFXのトレンドフォロー・逆張り・指数・金など8本のサブ戦略(スリーブ)の合成で、全体でPF 1.69(総利益÷総損失)・月利+1.06%が検証済みの基礎値です。

図: プロップ口座の失格ライン(概念図)。

図: この記事の「破綻」とは、これらのラインに触れて口座を失うこと。3本の道は全て、この確率を物差しに審査されます。

道①: 金を増やす(研究221/224)

まず一番自然な発想から。ここ数年、私のEAの金スリーブは絶好調です。配備構成のまま金のリスク量だけを0倍から2倍まで7段階に振ってみました。

金の倍率OOS月利PFOOS最大DD
0(金なし)+1.342%2.21-3.5%
1.0(現行)+1.409%2.08-3.6%
2.0+1.513%1.97-3.8%

未使用データの月利は単調に伸び、DDはほぼ不変。表だけ見れば「2倍にしない理由がない」ですよね。私も一瞬そう思いました。

でも3つの警告灯が点いていました。第一に、ルール決定期間(2015-23)では1.5倍がピークで2倍は逆に下がる非単調な形。未使用期間(2023-26)だけ綺麗に単調なのは、金がこの3年ずっと強気だった、その実現トレンドを拾っているだけの疑いが濃い。第二に、PFが2.21→1.97へ一貫して劣化している。増やした分のトレードの質は下がっています。第三に、そもそも単一資産への集中リスクは、実現したドローダウンの数字には写りません。

そこで裾(テール)を直接測りました。各構成の日次リターンをブロック・ブートストラップして3年複利のモンテカルロを12,000本ずつ回し、モンテカルロとは、日々の損益データを並べ替えて「あり得た運命」を何千通りも再生する手法です。

図: モンテカルロの考え方(シミュレーション例)。

図: 1本のバックテスト曲線ではなく、運の幅ごと比較するのがこの記事の流儀です。

月利中央値が4%になるようレバレッジを揃えた上で、最悪側だけを比較します。「同じリターンなら、どちらの裾が安全か」という等価交換の問いです。

金の倍率maxDD95%点資産半減(DD50%超)の確率
1.0(均一)40.0%0.8%
2.0+0.5pt+0.2pt
3.0+3.7pt1.7%(倍増)

答えは明快でした。2倍までは裾中立、つまり悪化しないが改善もしない。同じリターンなら均一レバと同じ危険です。そして3倍では、単一資産の集中が裾で牙をむき、資産半減の確率が倍になります。

攻めたいときの正解は、特定資産への傾斜ではなく、検証済みの構成を均一に濃くすること(そのためのリスク・プリセットが既にあります)。「攻め」と「偏り」は別物。金の実現トレンドは、無料の梃子ではありませんでした。

道②: 条件の緩い新プラン(研究231)

次はプロップ会社側の変化です。2026年7月、利益目標+6%・日次-2%・最大-3%という「速攻」プランが発表されました。目標が低くて一見易しそうに見えます。

このプランの運命は、数字1つで決まりました。私のEAのフルリスク時の日中最悪日は**-3.04%。新プランの退場ラインは-3%**。つまり通常運転の最悪の1日が、退場ラインとぴったり同じ寸法なんです。必然的に、レバレッジを大きく絞って運転するしかありません。

絞って測ると、合格自体は成立します。レバ係数0.6前後で合格率約75%、中央138日、失格7%。参加費が安いので「安く速く実績を取る枠」としては機能します(ただし従来プランは同じ分布でk1.5が張れて合格率91.5%・84日なので、比較すると見劣りします)。

問題は受かった後でした。-3%の床は合格後も恒久的に続くため、レバはずっと0.5前後に固定されます。

プラン運転レバ月次出金1年生存率
新プランk0.50.22%96.9%
従来プランk1.51.10%98.1%

月次出金が約5分の1に潰れた上に、生存率まで悪い。システムのPF自体は1.69のまま変わらないので、これはエンジンの問題ではなく器の問題です。継続出金を目的とするこのプロジェクトとは構造的に噛み合いません。

判定は条件付き否。使うなら「安い合格実績を1回取り、最小の出金をして畳む」使い捨て運用に限る。私は従来プラン(-5%/-10%)据え置きを選びました。

道③: 口座の自己増殖(研究243)

最後の道が本命です。追加の自己資金ゼロで、出金から次の口座の参加費を捻出し、艦隊を増やしていく。この経路が本当に回るのか、6,000世界×24ヶ月のモンテカルロで測りました。

モデルの正直さに一番こだわった点があります。全口座が同じ相場を歩くことです。同じEAを複数口座で走らせる以上、口座間に統計的な分散は生まれません。市場パスを艦隊内で共有させ、嘘の分散を捏造しない設計にしました。現金プールに入るのは出金の80%(報酬分配率)のみ。そこから参加費69,800円と、失格時の再挑戦費を払います。

素の結果はこうです。

  • 初収入の中央値は6ヶ月目(初回出金まで中央143取引日という別の検証と整合)
  • 24ヶ月の累計手取り: 中央410万円(下位10%は0円、上位10%は2,239万円)
  • 19〜24ヶ月目の平均月収: 中央27.3万円(上位25%は111万円)
  • 稼働口座は24ヶ月時点で中央5(上限)

ただし分布の形に2つの棘があります。1つは、単月の中央値は0円が長く続くこと。出金はクッションの再構築を挟んでバースト状に来るので、これは月給ではなく「固まって届く出金」です。もう1つが致命的で、全滅座礁が14.9%。初回出金の前に失格すると、プールが空のまま再挑戦できず、経路そのものが止まります。

7万円が分布を変える

ここで最重要の発見です。参加費1回分(69,800円)だけを「全滅時専用」に取り置くと、どうなるか。

予備費全滅座礁24ヶ月収入なし累計手取り(中央)
なし14.9%15.4%410万円
7万円2.38%3.3%486万円

座礁確率が約6分の1に潰れます。中央値の改善(+76万円)より大事なのは、下位テールの遮断です。下位10%の世界でも収入ゼロではなくなる。これは増収装置ではなく、破綻経路を物理的に断つ保険です。リスクが非対称な場面では、一番小さな一手が一番大きく効く、という原理の綺麗な実例だと思います。

頑健性も見ました。ボラ×1.1とコスト×1.3を同時に課したストレス世界でも、累計中央185万円・座礁25.5%(予備費で同様に圧縮可)と、経路自体は生き残ります。

3本の道の決算

判定決め手
金を増やす裾が改善しない(3倍で悪化)・実現トレンドへの後乗り
新プランに乗る条件付き否恒久-3%床が出金を1/5に圧縮
口座の並行増殖採用追加資金ゼロで回る・ただし予備費7万円が生命線

実行アクションは2つだけです。①今は現行チャレンジの生存が全て(艦隊の起点は今の1隻)。②可能なら69,800円を1回分、全滅保険として確保しておく。

「もっと稼ぐ」を3本掘って、最後に出てきた指示が「7万円を封筒に入れておく」。拍子抜けするかもしれませんが、期待値の議論を破綻確率の議論に変換すると、答えはたいてい地味になります。そして地味な答えほど、実際に効きます。基盤のシステム(PF 1.69/月利+1.06%)には、この間一度も手を触れていません。