
11年中10年勝つシステムを5回疑って、5回とも現状維持が最適だった
確定した自動売買システムを角度を変えて疑い続けた5回の頑健性監査の記録。フィルタ銘柄・ピラミッディング・年別成績・完全前進選抜・パラメータ感度・半両建て・データバグ修正後の再測定まで、すべての監査が「現行が最適」に落ち着いた過程と、その裏で働いた検証規律。
この半年、私が自分の売買システムに下した結論でいちばん多かったのは「何も変えるな」でした。フィルタに使う銘柄は正しいのか。利益が乗ったら積み増すべきではないか。この成績は特定の年のまぐれではないのか。設定値は偶然の当たりを拾っただけではないのか。買いと売りが同居しているのはバグではないのか。データ取得にバグが見つかった後でも結論は生きているのか。5回、角度を変えて疑って、5回とも答えは「現行が最適」。この記事は、その総点検の系譜を1本にまとめたものです。
改善ゼロの話を5連発で読まされるのか、と思うかもしれません。でも自動売買では、「変えなくていい」と数字で言い切れることこそが資産なんです。なぜそう言えるのか、どうやって確かめたのかを順に書いていきます。
はじめに: このブログと、読むのに必要な前提
初めての方向けに。このブログは、私(個人)がFXの自動売買プログラム(EA)を自作し、手法を統計検証して勝敗問わず記録している検証日記です。文中の「研究N」は私の検証ノートの通し番号。システムは「スリーブ」と呼ぶ複数の部品戦略(トレンドフォロー、平均回帰など)の集合体で、バージョン番号(v1.3.1やv1.5.0)を付けて管理しています。
用語を4つだけ。PF(プロフィットファクター)=総利益÷総損失で、1を超えると黒字。DD(ドローダウン)=資産の山からの下落率で、登山でいう「どれだけ下りに転じたか」。MC(モンテカルロ合格率)=日次リターンを再標本化してプロップファーム等の合格確率を推定した値。そして比較でよく出る「DD10%換算の月利」は、リスク量を「最大DDが10%になる水準」に揃えてから月利を比べる、ものさしの統一です。
前史: 最後の本物の改善は月利+11%だった(研究93)
総点検の物語は、皮肉なことに「改善に成功した検証」から始まります。当時のCore v1.3に対して、未検証のレバー(調整項目)を3つ審査しました。DDがマイナス15%になる運用条件での比較です。
| 調整内容 | 月利 | PF | DD(%) | 破綻確率 | Calmar比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 現状 (v1.3) | 0.71% | 1.48 | -8.8 | 6.8% | 0.93 |
| vt_cap 3.0へ引き上げ | 0.71% | 1.48 | -8.7 | 6.4% | 0.94 |
| Connors追加 | 0.78% | 1.45 | -10.1 | 7.2% | 0.77 |
| sat2へvol-target拡張 | 0.79% | 1.57 | -9.5 | 6.1% | 1.05 |
3案のうち本物は1つだけでした。vol-target(直近のボラティリティに応じたロット調整)をサブ戦略sat2にも行き渡らせる案です。核となる戦略とsat2は相関0.54と高く、そこがDDのボトルネックだったのを直接叩けた。Calmar比(収益性をDDで割った運用効率)も唯一改善しています。逆にConnors追加は月利こそ上がるもののDDがそれ以上に膨らみ、レバレッジを増やしただけの偽物でした。
これをv1.3.1として採用し、月利は0.71%から0.79%へ(+11%)、PFは1.48から1.57へ。MCは93%から94.3%に上がり、1分足で日中の口座推移を再構築した最悪の日次損失(M1最悪)は2.79%でした。そしてこのとき、こう結論しています。分散や新しい指標の追加はここが実質の天井。以後の改善提案は、この天井宣言への挑戦になります。
監査1: 見送った2案を蒸し返す(研究112)
その後、株価指数を地合いフィルタに使う改良を経てv1.4.0へ進んだところで、最初の総点検です。過去に見送った2案を、新しい構成でもう一度審査しました。
1つ目はフィルタ銘柄。私の核となるFX戦略は円クロス(円がらみの通貨ペア)中心なので、フィルタも米国のUS500(S&P500)より円建てのJP225(日経平均)の方が的確では、という仮説です。結果はDDを10%に揃えた月利でUS500が+0.22%、JP225は+0.18%でフィルタ無しと同等、両方のAND条件でも+0.20%。世界のリスク・センチメントを主導するのは米市場で、リスクオフの先行指標としてはUS500の方が優秀でした。仮説は筋が良さそうに見えて、実測では現行に勝てません。
2つ目はピラミッディング(利益が乗ったら積み増す手法)。総リスクを標準に揃えて比べると、標準の月利0.23%に対して最大2段で0.21%、3段で0.19%と、段数を増やすほど単調に悪化しました。平均建玉が小さくなり、資金を活かせないままリターンだけ削られる構造です。現行が価格データの効率フロンティア(限界点)上にある、という再確認で終わりました。
監査2: 年別と完全前進選抜で丸裸にする(研究135)
v1.5.0に進んだ段階で、今度はシステム全体を疑いました。まず固定パラメータのまま過去11年を年別に走らせると、勝ち年は11年中10年。唯一の負けは2018年のマイナス3.6%で、年ごとの最大DDもマイナス2.3%からマイナス8.2%の範囲に収まりました。特定の年のまぐれに依存していないことは確認できた。じゃあ、通貨ペアの選び方自体が後知恵だったら?

図: 前進検証(ウォークフォワード)の考え方。「過去で決めて未来で試す」を繰り返し、後知恵を排除します。
そこで完全前進選抜という後知恵チェックをかけました。あらかじめ固定した構成(robust5=円クロス通貨と金の組み合わせ)と、「各年の直前までの成績が良い通貨ペアをその都度選び直す」手法の対決です。
| 手法 | 総収支 | 勝ち年数 |
|---|---|---|
| 固定robust5 | +131.3% | 7/7年 |
| ナイブ(単純)前進選抜 | +63.0% | 5/7年 |
固定側の圧勝でした。選び直す側は2019年や2021年に、その時点でPFが高かったEURAUDやGBPNZDを拾ってしまい、それらがトレンドを作らず損失に。robust5は成績の良いものを後から集めた曲線合わせではなく、「円クロスがトレンドを作る」という構造的な事実に支えられた選択だと確認できました。唯一の留意点は、この強さが円安・金高という環境を前提にしていること。これは既知のリスクとして文書化し、監視対象にしています。
監査3: 設定値を大きくずらしても壊れないか(研究135の続き)
次はパラメータそのものへの疑いです。良い成績が「その数値だからこそ」出ているなら、それはナイフエッジ(刃の上に立つような不安定な状態)で、実運用の小さなズレで崩れます。スリーブ間のリスク配分4項目(index・sat2・connors・core risk)をそれぞれ3パターン振って検証しました。
結果、DD10%換算の月利は+0.96%から+1.01%の範囲。振れ幅はわずか0.04%でした。配分を変えてもリスク調整後のリターンがほぼ動かない、つまり特定の数値に依存していません。相場環境のストレス面も、2015年の円高、2020年のコロナショック、2022年の弱気相場、2024年の急激な円の巻き戻しと、あらゆる局面で生存してプラス圏。マイナスは例の2018年(-3.6%)だけです。年別・核選択・パラメータ・レジーム耐性の4項目すべて合格で、残る工程は実機でのデモフォワードのみ、という総括になりました。
監査4: 同じ通貨の買いと売りが同居していた(研究183)
ここからは実運用が持ち込んだ疑いです。本番口座を見ると、GBPJPYの買いとGBPUSDの売りが同時に建っていました。同じポンドを買いながら売る「半両建て」。バグか、それとも不合理な設計か。どちらかに寄せるべきでは、と誰でも思いますよね。

図: 売り側の主はConnors-LS(短期平均回帰)。図はその買い側の例で、売りはこの鏡像です。トレンド核の買いとは別の判断で動きます。
まず実態の確認から。2015年から2026年のデータで、併存するのは年間20日程度。併存中のショート側単体でも勝率64.5%、PF1.30と黒字でした(非併存時はPF1.45)。「逆向きだから損」という単純な構造ではありません。その上で、対処案を全部並べて反実仮想の比較をしました。
| 検証パターン | PF | 月利 | DD | MC |
|---|---|---|---|---|
| BASE(売り戦略なし) | 1.64 | 0.814% | -8.36% | 96.9% |
| 現行(併存を許容) | 1.62 | 0.838% | -7.89% | 97.4% |
| 競合フィルタ(併存時は売り見送り) | 1.62 | 0.835% | -8.04% | 97.4% |
| ショート全廃 | 1.63 | 0.822% | -9.28% | 96.8% |
面白いのはここです。併存を避けるフィルタを入れるとDDはむしろ悪化し、ショートを全廃するとDDは-9.28%と最悪になりました。半両建てはポンドの偏りを部分的に相殺する、船のバラスト(安定板)のように働いていたんです。売り戦略は独立した優位性でありながら、偶然重なったときにはリスクを下げる側に回る。疑って調べた結果、「そのまま」が月利・DD・MCすべてで最良圏という判定でした。
監査5: データのバグと「NVDAを持っていた方がまし」(研究191)
最後は一番耳が痛い監査です。並行して検証している株スイング戦略で、データ取得のバグが見つかりました。一部銘柄が対象から漏れ、株価の分割調整のせいで大化け銘柄が誤って除外されていたんです。NVDA(エヌビディア)がユニバースにいない検証で「市場に勝てる」と言っていたことになる。しかも読者の方から「これならエヌビディアを持っていた方がましでは」という指摘まで受けました。結論が崩れてもおかしくない状況です。
バグを直し、対象を105銘柄に広げて再測定しました。コア改は月利+0.98%/PF1.54/最大DD-23.55%。比較した確定形は月利+1.14%/PF1.56/DD-26.05%。そして市場平均(ヌル)に対する超過は、リーマンショックから現在までの5つの時代すべてで96%以上の確率でプラス。結論はむしろ強まりました。
NVDA買い持ちへの定量回答はこうです。過去21年の月利は+2.71%と確かに優秀。ただし最大DDは-85.1%で、2022年の下落だけでも-66.4%。しかもNVDAは「21年生き残った80銘柄」の月利ランキング1位、つまり未来の勝者を事前に知っていた前提の後知恵です。買い持ち80銘柄のDD中央値は-65.4%で、過半数が-60%超の暴落を経験しています。

図: DDの見方。月利+2.71%の裏に-85%の谷があるなら、それは同じ「儲かる話」ではありません。
この戦略の目的は未来の勝者を当てることではなく、どの銘柄が勝つか知らなくてもDDを市場平均の3分の1程度に抑えて規律的に上回ること。バグ修正という一番危うい監査を経て、その骨格が残りました。
5回の監査が買ってくれたもの
並べてみると、5回の疑いはそれぞれ別の急所を突いています。部品の選択(112)、時間方向の頑健性と後知恵(135)、設定値の感度(135の続き)、実運用で見えた挙動の合理性(183)、そしてデータ品質そのもの(191)。全部が「現行が最適」に落ちたのは、システムが優秀だからというより、v1.3.1の時点で分散とvol-targetの天井まで磨き切っていたから、そして毎回の判定をPF・月利・DD・MCの同じものさしと、反実仮想やヌル対照、前進選抜といった後知恵つぶしで下してきたからだと思っています。
改善案を却下し続けるのは地味です。でも「変えない」という判断も、検証しなければただの怠慢と区別がつきません。5回測って5回同じ答えが返ってきたことが、このシステムを実弾で動かす度胸の源泉になっています。残っている既知の弱点も1つだけ明確で、円安・金高レジームへの依存。これは直すものではなく、監視するものとして付き合っていきます。
この記事は研究93/112/135/183/191を統合したものです。