
AIが予測するリスク、そのロジックは本物か?
方向でなくリスク(先行き変動)をLightGBMで予測しレバ最適化(ウォークフォワード+エンバーゴ・リーク防止)。特徴量=trailing vol(rv5-60)/vol-of-vol/momentum/drawdown/US500距離。target=t+1..t+20実現ボラ。
本記事は「AIが予測するリスク、そのロジックは本物か?」の検証を、はじめての方にも分かるようにまとめたものです。
どんなアイデアを試したの?
FXの自動売買(EA)って、値上がりするか値下がりするかを予測するのが一般的ですよね。でも、今回の研究ではちょっと違ったアイデアを試してみました。 それは、「値動きの方向を予測するのではなく、FX市場がこれからどれくらい大きく動きそうか(=リスク)を予測して、その予測に合わせてポジションの大きさを変える」というものです。 例えるなら、登山で「この道は険しそうだから、今日は軽めの装備で行こう」とか、「この道は比較的穏やかだから、もう少し荷物を増やして挑戦しよう」と判断するようなイメージですね。市場のボラティリティ(変動幅)が高いと予測されればポジションを小さく、低いと予測されれば大きくする、という考え方です。 この「リスク予測」には、LightGBM(ライトグラディエントブースティングマシン)という**機械学習(AI)**の手法を使いました。AIに過去の様々なデータを学習させて、未来のリスクを予測してもらおう、というわけです。 AIに教えてあげたデータ(特徴量)は、こんな感じのものたちです。
- 過去の変動幅 (trailing vol):直近5日〜60日間の値動きの大きさ。
- 変動幅の変動幅 (vol-of-vol):値動きの大きさが、さらにどれくらい変化しているか。
- 勢い (momentum):価格が上昇・下降する勢い。
- 最大ドローダウン (drawdown):一時的に含み損がどれくらい膨らんだか。
- US500距離:アメリカの株価指数(S&P500)との関連性や、その距離。 そして、AIに予測させたかったのは、**「1日後から20日後までの実際の値動きの大きさ(実現ボラティリティ)」**でした。
どうやってテストしたの?
このAIが作ったEAが本当にうまくいくのか、過去のデータを使って厳密にテストしました。 「ウォークフォワードテスト」という方法で、未来のデータが予測に漏れ出さないように細心の注意を払いました。これは、例えば2020年までのデータでAIを学習させたら、2021年のデータでテストし、次に2021年までのデータで学習させたら2022年のデータでテストする、というように、常に**「未来のことは知らない」**状態でテストを進めるやり方です。 まるで、過去の天気予報のデータで天気予報AIを訓練して、今日以降の天気を予測させるようなものですね。過去のデータだけを使って、未知の未来を予測させるので、より実践に近い検証ができます。
結果はどうだったの?
さて、肝心のテスト結果です。
最初のテストでは「おっ!」と思ったんですが…
まず、2019年から2025年までのデータで試したところ、**月平均で+3.12%**という、かなり良いパフォーマンスが出ました。これは、一般的な株式投資や分散投資(VT+株式)の2.7倍もの利益率に相当します。「これはすごいEAができたかも!?」と、最初はとても期待したんです。
厳密に検証したら、あれれ?
しかし、もう少し厳しく、そして広い期間(2018年から2025年)でテスト期間を延長してみると、月平均の利益は**+1.64%**まで下がってしまいました。それでも悪くない数字ではありますが、最初の「出来すぎ」感は薄れてきましたね。
そして「プラセボテスト」で衝撃の事実が!
ここからが重要なんです。私たちは、このAIによるリスク予測が本当にEAのパフォーマンスを向上させているのかを確かめるために、「プラセボテスト」という特別な検証を行いました。 プラセボ(偽薬)テストというのは、医療の現場で使われる方法をFXに応用したものです。例えば、新薬の効果を測るとき、本物の薬を飲んだグループと、見た目そっくりだけど中身はただの砂糖水である偽薬を飲んだグループを比較しますよね。 今回のEA検証では、AIが予測したリスクの情報を完全にシャッフルして、「AIの予測が全く意味をなさない、デタラメな情報」でポジションサイズを調整するEAを作って比較しました。これは、AIが全く何の役にも立たない状態、つまり「情報ゼロ」のランダムなレバレッジ調整をしているのと同じことです。 すると、驚くべきことに、この**「情報ゼロのデタメEA」でも、月平均で+1.44%もの利益が出てしまったんです! これは何を意味するかというと、最初にAI予測で+1.64%の利益が出ていたように見えたうちの大半(1.44%分)は、AIが賢く予測した結果ではなく、ただ「ポジションサイズを調整した」という行為そのものによる「副産物」だったということなんです。 AIが一生懸命予測して、本当に上乗せできた利益は、わずか+0.20%**。これは、誤差の範囲と言ってもいいくらいの小さな数字で、残念ながら「ノイズ」と判断せざるを得ません。
ここから学んだこと
今回の研究から得られた結論は、残念ながら「機械学習(AI)を使ってリスクを予測し、ポジションサイズを調整する手法は、信頼できる(堅牢な)改善にはならない」というものでした。プラセボテストによって、その効果のほとんどが剥がれ落ちてしまったからです。 なぜこんな結果になったのか、さらに深掘りしてみると、FX市場のトレンドの核となる部分では、実は**「過去の変動幅(trailing vol)を見るだけでも、これから先の変動幅(forward vol)をかなり正確に捉えられている」ということが分かりました。つまり、AIが頑張って予測しようとしても、過去の変動幅の情報に比べて、それ以上の新しい価値ある情報(優位性(エッジ))をほとんど追加できていなかった、ということなんです。 以前の研究(研究㉞)で「AIは方向を予測しても、結局は過去のトレンドを再発見しているだけだった」という結論が出ましたが、今回のリスクサイジング版も、残念ながら「大きな新しい優位性(優位性)は見つからなかった」という結果になりました。 これは、現在私たちが運用している既存のEA、「v1.4.0」が、依然として最も優れたパフォーマンスを発揮している、ということを再確認する結果でもあります。 今回の研究で得られた大切な教訓は、「特定の短い期間だけでEAの成績を比較するのはとても危険だ」ということです。特に、ポジションサイズを調整する(サイジングオーバーレイ)ような手法の場合、単にサイズを調整したことによる「ノイズ」が大きく、AIの真の実力を見誤ってしまう可能性があります。 だからこそ、EAを検証する際には、必ずプラセボテスト**を行ったり、複数の異なる期間でテストしたりして、本当に信頼できる優位性があるのかを徹底的に見極める必要がある、と強く感じました。
この検証のつながり
この検証は、過去の次の検証を踏まえています(前回ダメだった→今回こうした、別ロジックとの比較など)。