
合格率38%と期待値+7万円の皮算用が、1分足の-6.32%で崩れた
プロップ挑戦を運任せにしないため、合格確率のモンテカルロ・参加費込みの期待値・1分足での日中リスク再構築という3つの物差しを作った記録。合格率38%と期待値+71,227円が、エッジゼロ検定と為替介入の1日でどう覆ったか。
合格率38%、総合期待値+71,227円。プロップ挑戦のシミュレーションは最初、そんな景気のいい数字を返してきました。ところが検算のつもりで感度分析をしたら「優位性がゼロでも+45,753円儲かる」というありえない答えが出て、最後は1分足で測り直した為替介入の日、日中-6.32%の即失格がとどめを刺します。
この記事は初期の3本の検証(研究10/11/12)を1つの物語にまとめたものです。プロップ挑戦を運任せにしないために、合格確率・期待値・日中リスクを数字にする物差しを順番に作った記録で、いわば検証基盤の土台工事にあたります。派手な必勝法は出てきません。その代わり、「自分に都合のいい計算」がどこで嘘をつくかを、実測で1つずつ潰していきます。
はじめに: このブログと、読むのに必要な前提
初めての方向けに。このブログは、私(個人)がFXの自動売買プログラム(EA)を自作し、手法を統計検証して勝敗問わず記録している検証日記です。文中の「研究N」は私の検証ノートの通し番号で、今回はその10〜12番の話です。
前提を2つだけ。まず「プロップファーム」は、試験(チャレンジ)に合格したトレーダーに運用資金を提供し、利益を分配する業者です。今回の対象はFintokeiというプロップで、+8%の利益目標に届けば合格、最大損失-10%に触れたら失格、挑戦には参加費がかかります。自己資金を大きく張らずに大きな資金を動かせる一方、業者が黒字である以上、挑戦者の大半は負ける設計のはずです。
もう1つは「モンテカルロ(MC)」。過去の日次リターン(1日ごとの損益)を再標本化して並べ直し、あり得た口座の運命を何千通りも再生するシミュレーションです。バックテスト1本の結果は運の産物かもしれませんが、何千通りも回せば「運の幅ごと」評価できます。このブログでMC合格率と言うときは、この方法で推定したプロップ合格確率のことです。

図: プロップ口座の失格ライン(概念図)。利益目標に先に届けば合格、損失ラインに一瞬でも触れたら失格。この「一瞬でも」が後半の主役になります。
合格率はサイコロで見積もれる(研究10)
最初の問いは素朴です。手元の戦略でチャレンジを受けたら、何%の確率で受かるのか。
材料は、日足ベースのRSI平均回帰戦略(円絡みの通貨ペア。下がりすぎた価格の戻りを狙う逆張り)の日次リターンです。これをブロック・ブートストラップという手法(連続した数日分をかたまりでシャッフルし、相場のクセを残したまま並べ直す方法)で再構成し、そこにFintokeiのルールを適用して合否を数えました。Fintokeiは取引日数に制限がないので、評価は最大750日で区切っています。

図: モンテカルロの考え方(シミュレーション例)。同じ戦略でも運次第でこれだけ経路が散らばります。
結果はこうでした。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| リスク設定 | 1トレードあたり約1% |
| 合格率 | 約38% |
| 期待試行回数 | 2.6回 |
| 合格までの参加費目安 | 約33,000円 |
1回で受かる確率は4割弱。ただ落ちても参加費を払って再挑戦できるので、期待値としては2.6回目、参加費にして約33,000円で合格に届く計算です。
やってみて意外だったのはサイジング(ロットの大きさ)の効き方でした。小さくしすぎると750日以内に+8%へ届かず期限切れ、大きくしすぎると-10%の失格ラインに引っかかる。合格率を最大化する最適点が途中にあるんです。「リスクは小さいほど安全」という直感は、期限と目標のあるゲームでは成り立ちません。
もう1つの収穫は対照実験です。優位性(エッジ)が完全にゼロの売買を同じルールに通すと、合格率は20.7%。+8%対-10%という非対称なルールのおかげで、コイン投げでも5回に1回は受かってしまう。逆に言えば、38%という数字はゼロ優位性を明確に上回っていて、この戦略に微小ながら本物の優位性があることの傍証になります。
ただしこの時点で、自分に釘を刺しています。この計算は日中の急変を見ていない楽観側の数字で、しかも合格と、資金提供後に出金し続けることは全くの別問題です。そこで次は、参加費から出金までを通しで計算することにしました。
優位性ゼロでも儲かる計算は、どこかが壊れている(研究11)
研究11では、Fintokeiのクオーツプラン(100万円口座・参加費12,500円・リスク1%)を対象に、挑戦から資金化、出金、最終的な失格までを通した総合期待値(EV)を計算しました。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 総合期待値(EV) | +71,227円 |
| 合格率 | 38% |
| 資金化後の出金期待値 | 9.3% |
| システムの寿命 | 311日 |
参加費を払っても期待値は+71,227円。数字だけ見れば「挑戦する価値あり」です。じゃあ挑戦だ、となる前に、モデルの感度分析(前提を動かしたとき結論がどう揺れるかの検査)をしました。ここで事件が起きます。
トレードの優位性をゼロに置いても、計算上は+45,753円のプラスが出たんです。
これは変です。プロップファームは業者が利益を得るハウス優位のビジネスのはずで、優位性のない挑戦者の期待値は本来マイナスに沈まないといけない。それがプラスに出るということは、儲かるかどうか以前に、計算の前提のどこかが現実より甘いという決定的な証拠です。
原因は特定できました。日次リターンで回すモンテカルロは、日中の瞬間的な損失を原理的に見ていません。日次ベースでは-5%の負けに見える日でも、その日の途中ではもっと深く突っ込んでいたかもしれない。失格ラインへの抵触を過小評価すれば、合格率も寿命も出金も全部が楽観に傾きます。実際、コストを差し引いて平均をゼロに揃えると、現実は負け越す計算になりました。
結論はシンプルです。この総合EVのプラスは信用しない。現状の弱い優位性では、実際の期待値はマイナスの可能性が高い。それでも挑戦するなら、「下振れしても失うのは参加費だけ」という計算済みの小さなリスクと割り切れる範囲に留める。そして何より、日中の損失をちゃんと反映した現実的なリスクモデルを先に作る。それが研究12です。
最悪日次損失0.00%は嘘だった(研究12)
日足のデータだけで評価していたとき、この戦略の成績表には「最悪の日次損失0.00%」と書いてありました。一度も基準に触れない、無傷の優等生に見えていたわけです。
でも日足は1日を1つの点として扱います。朝から晩までの間に何が起きても、終値さえ戻っていれば記録に残らない。プロップの失格ラインは日中に一瞬触れただけで発動するので、この物差しでは原理的に測れないものがあります。
そこで、トレードを保有している時間帯だけ1分足(M1)で含み損益を展開し、口座残高の推移を分単位で再構築しました。答え合わせ用に取っておいた未使用データ(OOS)での結果がこれです。
| 評価方法 | 最悪の日次損失 | 判定 |
|---|---|---|
| 日足だけで評価 | 0.00% | 無傷 |
| 1分足で再構築 | -6.32%(2024年4月29日) | 失格 |
2024年4月29日は、USDJPYの為替介入があった日です。RSIの逆張り戦略が介入の急激なトレンドに逆行してポジションを持ち、日中に6.32%沈んでいました。日足の終値だけ見れば何事もなかった日に、口座は一度、退場ラインの向こうへ行っていたんです。

図: ドローダウンの例。日足の谷は「日々の点」をつないだ深さで、日中の谷はさらに深くなり得ます。
これで前の2本の数字の読み方が確定しました。合格率38%も期待値+7万円も、実際にはこの期間に一発失格していたはずの経路を「無傷」として数えた、楽観側の数字だったということです。研究11の感度分析が「どこかが甘い」と告げ、研究12がその「どこか」を特定した格好ですね。
がっかりする結果に見えるかもしれませんが、私はこれを前進として記録しています。1分足での再構築という正直な物差しがここで完成し、以後の検証はすべて日中ベースの抵触込みで審査できるようになりました。
3つの物差しが買ったもの
3本をまとめると、手に入ったのはこういう道具箱です。
- 合格率は測れる。ただし日次データだけだと楽観に傾く
- 期待値モデルの健全性は、優位性ゼロで検算すると診断できる
- 日中リスクは1分足の再構築でしか見えない
この時点の戦略に、プロップから出金し続けられるほどの頑健な優位性はまだありません。それでもこの基盤には価値があると考えています。使えない戦略を、実弾を撃つ前に却下できるからです。資金を増やす前にまず減らさないこと、その土台がここでできました。
読者の方に持ち帰ってもらうなら3つです。日足バックテストの成績だけでプロップ挑戦を決めないこと。誰かの期待値モデルを見たら「優位性ゼロを入れたらどうなるか」を確かめること。それでも挑戦するなら、失っても参加費だけという計算済みのリスクに収めること。派手さはないですが、この3つは全部、実測が教えてくれた教訓です。
この記事は研究10/11/12を統合したものです。