
バックテストの月利0.85%が本番では0.7%に減る内訳を全部測った
スプレッド・スリッページ・スワップ・ギャップ約定。バックテストと本番口座の間にある取引コストを4本の検証で測った系譜。月利は意外と削れず、代わりにドローダウンが深くなる。攻め構成はDDが2倍になり、最後に残った未知数は実測スワップだった。
バックテストで月利0.85%と出たシステムは、本番口座ではいくら稼げるのか。私の実測の答えは0.7%前後です。ただし削られ方には意外な偏りがありました。月利は思ったほど減らず、代わりにドローダウン(資産の下落幅)が1.5〜2%も深くなるんです。
この記事は、自作EAを本番口座に載せる前後で行った4本のコスト検証(研究106/107/109/203)を1つの物語にまとめたものです。スプレッド、スリッページ、スワップ、そしてギャップ約定。バックテストと実弾の間に横たわる取引コストを、1つずつ順番に測っていきます。
はじめに: このブログと、読むのに必要な前提
初めての方向けに。このブログは、私(個人)がFXの自動売買プログラム(EA)を自作し、手法を統計検証して勝敗問わず記録している検証日記です。文中の「研究N」は私の検証ノートの通し番号。検証にはFX・金・株価指数の実データ約11年分を使っています。
用語を先に。PF(プロフィットファクター)=総利益÷総損失で1超なら黒字。DD(ドローダウン)=資産の山からの下落率。MC(モンテカルロ合格率)=日次リターンを再標本化してプロップファーム(資金提供会社)の合格確率を推定した値。スリッページ=注文価格と実際の約定価格のズレ。スワップ=ポジションを日をまたいで持つときに発生する金利差の受け払いです。

図: この記事の主役はドローダウン。コストは月利より先に、この「谷の深さ」を襲います。
研究106: コストを上乗せしてもシステムは生きるか
主役は当時の確定構成だった核システム(Core v1.4.0)。複数の売買ロジックを束ねたポートフォリオ型のEAで、平均保有期間6.8日、11年間で6,168回という低頻度の設計です。まず「もしコストが上乗せされたら」というストレステストをかけました。
| 条件 | 月利 | DD | MC合格率 |
|---|---|---|---|
| コストゼロ | 0.85% | -9.7% | 94% |
| +2pipsのコスト | 0.79% | -12.0% | 91% |
月利は0.85%から0.79%への低下にとどまり、意外なほど頑健でした。ところがDDは-9.7%から-12%へ大きく悪化。犯人はスリッページです。損切り注文が滑って想定より悪い価格で約定するため、損失側だけが膨らみ、谷が深くなる。コストの主戦場は利益ではなくリスクの側でした。
この結果を受けて実費相当(+1pipと手数料$7/lot)で計算し直すと、リスク値0.003(資金の0.3%)ではDDが-11.5%と安全圏の10%を超えます。そこでライブ運用はリスク値0.0025(0.25%)へ一段保守化。実費込みでDD約10%以内、月利0.7%程度を目指す形に落ち着きました。
バックテスト比でいうと、実費込みの期待値はおよそ88〜95%。別トラックで走らせている検証の実績(FXで約83%、金で約45%)とも整合する数字です。
研究107: スワップは敵か味方か
翌日に回したのがスワップの試算です。平均保有6.8日と長めのシステムなので、毎晩の金利差の受け払いが無視できません。トレードの想定元本×保有日数×資産ごとの日次スワップ率で積み上げました。想定元本の規模感は円クロスが4,213と最大で、指数1,082、金895、円以外の通貨ペア229と続きます。
| シナリオ | 月間の損益影響 |
|---|---|
| 現在の環境(USD金利>JPY金利の追い風) | +0.18% |
| 中立(金利差なし) | -0.04% |
| 円キャリー反転時(不利) | -0.30% |
今の環境では、円クロスのロングで受け取る正のスワップが、金や指数の保有コストを相殺して余りある。つまりスワップは味方です。ただし円キャリー取引が巻き戻る局面では月-0.30%の逆風に変わるので、ここだけは監視が要ります。
研究106のコストと合わせた本番の見取り図はこうなりました。スプレッドとスリッページで月-0.04%、DDに+1.5〜2%。スワップは中立から+0.18%。リスク値0.0025で回すライブの実質期待値は月利0.7〜0.8%、DD10%前後です。
研究109: 攻めの構成はコストに大幅に脆かった
ここまでは守りの核の話。では利益の上振れを狙う「攻め」の構成、核に通貨ペア別の個別戦略(Per-Pair)を足した形はどうか。期待して測ったら、核より大幅に脆いことが分かりました。
鍵は保有期間です。核の平均保有は6.8日。対してPer-PairはDonchianやATRを使う手法で1.2〜1.3日、FX Connors系(EURJPYとGBPNZD)に至っては0.2日で決済する高回転です。保有が短いほど1回あたりの利幅が薄く、同じスプレッドと手数料が重くのしかかる。実費(+1pipと$7/lot)を差し引いた結果がこちらです。
| 項目 | コスト考慮前 | 実費考慮後 |
|---|---|---|
| 現レジーム月利 | 2.43% | 1.86% |
| 通期月利 | 1.38% | 0.91% |
| 通期DD | -14% | -28% |
| 通期MC合格率 | 89% | 69% |
月利の減少は2割強で済むのに、通期DDは2倍の-28%まで悪化し、MC合格率は69%へ転落。特にコストを食うFX Connors系を除外した構成でもDD-25%、MC74%が精一杯でした。
一方の核単独はコストに極めて頑健です。指数スリーブはPF5.77と高く、スワップも追い風で、月利の減少は7%程度に収まる。結論として、継続出金を狙う堅実運用は核単独、攻め構成は「現レジームでの上振れ狙い」と割り切り、リスク値を0.002(0.2%)程度まで下げて使う。用途の使い分けがはっきりしました。

図: MC合格率は「あり得た口座の運命」を何千通りも再生して測ります。コスト込みで89%が69%に落ちる、はこの分布ごと悪化するという意味です。
研究203: 検証エンジンごと現実に寄せる
時間が経って、コストの検証はもう一段深いところへ進みます。今度は個別のシステムではなく、バックテストエンジンそのものに残っていた「楽観」を潰しにいきました。変更は3つです。
1つ目はギャップ約定。価格が損切りラインを飛び越えたら、指値通りではなく飛び越えた先の寄り付き価格で約定させます。2つ目はスワップの厳密計上。日をまたぐたびに保有ポジションへ課金します(木曜は3日分)。3つ目はロールオーバー・スプレッド。スプレッドが膨らむ深夜のサーバー23〜1時にエントリーした場合のコスト割増です。当時の確定構成(Core v1.6.0)を2015〜2026年で測り直しました。
| 検証条件 | 月利 | PF | 最大DD | MC合格率 |
|---|---|---|---|---|
| 旧動作(楽観モデル) | 0.810% | 1.64 | -8.1% | 97.2% |
| 新既定(ギャップ約定込み) | 0.787% | 1.60 | -8.4% | 96.3% |
| フルストレス(スワップ1.0pip/泊+深夜コスト) | 0.630% | 1.42 | -14.6% | 85.8% |
ギャップ約定の影響は月利-0.023ポイントと軽微でした。「理想価格で約定する」という甘さは実在したものの、小さかった。むしろ効いたのはスワップです。感度を測ると、1泊0.5pipのマイナススワップで月利は-0.078ポイント(約1割の目減り)、MC合格率は-3.6ポイント。数週間ポジションを持つトレンドフォロー型では、この毎晩の小さな課金が最大の未知数でした。
それでも最悪条件のフルストレスで月利0.630%、PF1.42、MC合格率85.8%を維持。コスト負けして戦略が崩壊する構造ではないと確認できたのは大きな収穫です。以後の検証はこの新既定(月利0.79%/PF1.60/MC96.3%)を基準に進めることにしました。

図: 深夜や週明けのスプレッドは平常時の数倍に膨らみます。研究203の「深夜コスト割増」は、この実測に根ざした設定です。
4本の検証で分かったこと
系譜を貫く学びは3つあります。
- コストの主戦場は月利ではなくDD。利益は1割前後しか削れないのに、谷は1.5〜2%深くなり、攻め構成では2倍になった
- コスト感度を決めるのは保有期間。6.8日持つ核は頑健で、0.2日で回す高回転ロジックは脆い
- 最後に残った未知数はスワップ。想定次第で月利が1割動くのに、正確な値はブローカーの実測でしか分からない
だから宿題も明確です。稼働中のEAが出力する取引履歴には、実際に支払ったスワップや手数料が記録されます。このデータを数週間分蓄積して銘柄ごとに較正し、運用計画の数値を実測ベースで引き直す。バックテストと実弾の距離は、想像で埋めるものではなく、測って埋めるものでした。
この記事は研究106/107/109/203を統合したものです。