
月利0.47%の天井を指数の買いが破り、売りはPF0.13で沈んだ
FX中心の確定システムが突破できなかった月利0.5%の壁を、無相関の株価指数スリーブが破るまでの採用の系譜(統合テスト・1分足の日中リスク実測・コスト感度・実装仕様)と、その裏で指数ショートが通期-29.6%/PF0.13で壊滅した記録。
何をしても月利0.5%で頭打ちだったEAに、株価指数の買いを1本足しただけで、月利は0.47%から0.53%(PF1.45)へ伸び、ドローダウンはむしろ-9.0%から-8.3%へ軽くなりました。ところが同じ株価指数を売り(ショート)で狙った戦略は、通期-29.6%、PF0.13という壊滅で終わります。同じ市場なのに、向きが違うだけで天と地でした。
この記事は、株価指数スリーブが私のポートフォリオに採用されるまでの検証の系譜(研究59/68/108)と、その裏で不採用になった指数ショート(研究111)を、1つの物語にまとめたものです。
はじめに: このブログと、読むのに必要な前提
初めての方向けに。このブログは、私(個人)がFXの自動売買プログラム(EA)を自作し、手法を統計検証して勝敗問わず記録している検証日記です。文中の「研究N」は私の検証ノートの通し番号です。
前提を3つだけ。まず、スリーブ。ポートフォリオを構成する部品戦略のことで、袖(スリーブ)を付け替えるように足したり外したりします。私のEAは「確定システム」と呼ぶFX中心のスリーブ束で動いています。次にプロップファーム。資金提供型のトレード会社で、「日次損失-5%」「最大-10%」などのルールに一度でも触れると失格です。私のEAはこのルールの中で勝つことを目標にしています。最後に指標の用語。PF(プロフィットファクター)=総利益÷総損失で1超なら黒字。DD(ドローダウン)=資産の山からの下落率。MC合格率=日次リターンを再標本化してプロップ合格確率を推定した値です。
月利0.5%の壁を、無相関の指数が破った(研究59)
出発点の確定システムは月利0.47%、DD-9.0%、MC合格率85.1%。手法の改良をいくら重ねても月利0.5%あたりに見えない天井があり、そこが価格データから絞り出せる限界に見えていました。
そこに足したのが指数スリーブです。ルールは単純で、米国の株価指数3種(US3)を対象に、価格が200日移動平均線(SMA200)より上にあるときだけ買う日足のトレンドフォロー。FXの確定システムとはほぼ無相関(互いに影響し合わない動き)の別ストリームです。

図: トレンドフォローの買いエントリーのイメージ。指数スリーブもこの系統の、日足でゆったり乗るロングです。
| 構成 | 月利 | DD | PF | MC合格率 |
|---|---|---|---|---|
| 確定システム単体 | 0.47% | -9.0% | - | 85.1% |
| 確定+指数(risk0.005) | 0.53% | -8.3% | 1.45 | 89.5% |
| 確定+指数(risk0.008) | 0.63% | -9.8% | - | 88.0% |
リスク0.005(資金の0.5%)で足した行を見てください。月利は0.47%から0.53%へ、DDは-9.0%から-8.3%へ、MC合格率は85.1%から89.5%へ。全部の指標が同時に良くなっています。月利換算で約13%の上積みです。リターンを上げればリスクも増えるのが普通なのに、無相関の資産を混ぜると「より高いリターン」と「より低いDD」が同時に手に入る。分散投資の教科書どおりの効果が、実測ではっきり出ました。
じゃあ即採用でしょ?と思いますよね。ここで昇格を止めたのが、日中リスクの未検証でした。この時点の指数の検証は日足ベースのみ。指数は窓開けやスパイク(突発的な価格変動)が激しく、日足では無傷に見えても、1分足で口座推移を再構築すると日次-5%の失格ラインに触れているかもしれません。過去の検証で「日足の勝ちが1分足で失格に変わる」例を見てきたので、確定システムにrisk0.003、指数にrisk0.005という推奨構成だけ決めて、昇格は保留にしました。
1分足で測ったら、先に見つかったのは自分のバグだった(研究68)
というわけで1分足(M1)の日中検証です。SP500、DAX、日経225の2010年から2018年分のM1データをGitHubの公開データから取得して測り始めたところ、いきなり日次-5.99%という急落が出ました。-5%への抵触が10日もある。指数スリーブ、失格なのか?
正体は検証システムのバグでした。日中の含み損益を合算する処理が、銘柄ごとに取引時間が違うことを考慮しておらず、ティック(価格更新)のない時刻に他の建玉の含み益をゼロとして扱っていたんです。指数はアジア・欧州・米国でセッションが分かれているため、含み益が点滅して偽の急落に見えていた。実際の建玉の変動は最大0.31%でした。各建玉を統一タイムラインに乗せ、データのない時刻は直前の値で埋める方式に修正。FXコアへの影響は4.05%から4.00%への微減にとどまり、後方互換も確認できました。
危ないところでした。もしバグが逆方向(リスクを小さく見せる側)に出ていたらと考えると、測定装置そのものを疑う習慣の大切さが身に沁みます。
修正後の本番です。2015年から2018年は、2015年8月のフラッシュクラッシュ、ブレグジット、2018年2月のボラティリティ・ショック(Volmageddon)を含む荒れた期間。リスク0.005での実測はこうなりました。
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 最悪日次損失 | 2.60%(2018年2月) |
| 日次-5%抵触 | 0回 |
| 最大-10%抵触 | 0回 |

図: プロップの失格ライン。日足の終値ではなく、日中の一瞬の触れで判定されるのがポイントです。
最悪の日でさえ、-5%ラインまでまだ半分近い余裕がある。指数ロングのトレンドフォローは、日中リスクの観点で健全でした。この時点で残っていた宿題(2019年から2025年、特に2020年3月のコロナショックと、ナスダックなど本番銘柄での確認)も、この後の検証でクリアし、指数スリーブは正式にポートフォリオへ昇格します。
コストの壁は、11年で39回しか叩かれない(研究108)
昇格の次は本番化です。指数はCFD(差金決済取引)で運用するため、スプレッド(売値と買値の差)やスリッページ(注文価格と約定価格のズレ)が成績をどこまで削るかを測りました。
結果は拍子抜けするほど頑丈でした。スリッページを毎回プラス20ポイントという厳しめの想定で乗せても、PFは5.77から5.09へわずかに下がるだけ。理由は取引頻度にあります。このスリーブは11年間で39トレードしかない、数ヶ月保有の大トレンド狙い。コストは取引のたびに払う通行料なので、めったに通行しない戦略にはほとんど効かないんです。逆に言えば、短期売買ほどコストの壁は高くなる。この構図は後の検証でも繰り返し確認することになります。
実装面では、Pythonの計算サーバが判断し、注文だけを出す薄いEAが執行する方式を採用しました。要になるのは日次オーバーレイで、口座のエクイティ(有効証拠金)に応じたvol-target(ボラティリティに応じたロット調整)の倍率と、US500日足のトレンドに基づく株式フィルタの倍率を、前日の確定値から算出して当日は固定します。ライブのリスクは0.0025(資金の0.25%)。通貨換算のミスや短時間の連続注文、指数CFD特有の仕様といった落とし穴も仕様書に書き出し、スプレッド・スリッページ・スワップ・指数CFDと、コスト関連の懸念はここですべてクリアになりました。
では同じ指数を売ったらどうなるか(研究111)
ここまでが採用の系譜です。その裏で走っていたもう1本が、指数ショートでした。
仮説には筋が通っていました。指数は2018年第4四半期、2020年、2022年のような鋭い下降トレンドを持つ。ならば売りから入るトレンドフォローを組めば、暴落時に利益を積む負相関ヘッジ(他の資産が下がるときに利益が出て、全体の損益を守る仕組み)になるのではないか?
実測は通期-29.6%、PF0.13。総損失1に対して総利益0.13しかないという壊滅です。頼みの暴落年ですら、2020年は-1.2%、2022年は+0.1%(2トレード)と、ほとんど稼げていません。
なぜここまでダメなのか。真因は暴落の「速さ」です。指数の暴落はV字型で、落ちるのも戻るのも速い。トレンドフォローは定義上、動きを確認してから入る後追いなので、売りシグナルが出た頃には下げの大半が終わっていて、直後の急反発で踏み上げられます。そして平時は、指数の上昇ドリフト(長期的な右肩上がりの性質)がショートの損益をじわじわ削り続ける。確定システムとの相関は-0.11で、たしかに逆向きには動いていました。でも、逆向きに動きながら大負けするのでは意味がありません。過去の検証で得ていた「違う場所で負けるだけ」という教訓を、そのままなぞる結果でした。

図: ドローダウンのイメージ。ヘッジのつもりの戦略が自分でDDを掘っていくのでは本末転倒です。
系譜が教えてくれたこと
4本を並べると、採用と不採用を分けた線がはっきり見えます。
- 天井を破ったのは手法の改良ではなく、無相関資産の追加でした。月利0.47%から0.53%(PF1.45)は小さく見えて、月利・DD・MC合格率の同時改善という質的な変化です
- 昇格の関門は日中リスクの実測。日足の成績がどれだけ良くても、1分足で失格ラインに触れれば無意味です。測定装置のバグ発見まで含めて、この関門が結果の信頼性を作りました
- コスト耐性は取引頻度で決まる。11年39トレードの大トレンド狙いは、+20ポイントのスリッページでもPF5.77→5.09とほぼ無傷でした
- 同じ市場でも向きが違えば別物。指数の優位性はロング側だけにあり、ショートは通期-29.6%/PF0.13。負相関でも負けるヘッジは、ヘッジではありません
指数スリーブはこの後、確定システムの一部として実運用に入り、今も動いています。そして「ショートは資産をすり減らすドラッグ」という結論は、その後の数多くの検証でも覆りませんでした。価格の頑健な優位性はロング・トレンドにある。この4本の系譜は、その結論へ至る道のりの、いちばん分かりやすい標本だと思います。
この記事は研究59/68/108/111を統合したものです。