
どの設定でも勝てた金の買い方が1日で-7.2%、主力候補に残るまでの3検証
金トレンドスリーブの系譜を3本の検証でたどる。全パラメータでプラスだったドンチャン・ブレイク、1分足検証で露呈した日次-7.2%の含み益吐き出し、2エントリー比較の末にATR型単体へ差し替えるまでの記録。
どの設定でも勝てたはずの戦略が、たった1日で口座の7.2%を失いかけました。犯人は損切りの失敗ではなく、それまで積み上げてきた含み益です。この記事は、私のEAの中で金(ゴールド)を担当するトレンド戦略が生まれ、1分足の精密検査で弱点をさらけ出し、2本目のエントリーとの比較選抜を経て形になるまでの系譜を、3本の検証記録(研究16・17・50)からまとめたものです。
はじめに: このブログと、読むのに必要な前提
初めての方向けに。このブログは、私(個人)がFXの自動売買プログラム(EA)を自作し、手法を統計検証して勝敗問わず記録している検証日記です。文中の「研究N」は私の検証ノートの通し番号。検証にはFXや金の実データを使い、うまくいかなかった話もそのまま書いています。
用語を先にいくつか。PF(プロフィットファクター)は総利益÷総損失で、1を超えると黒字。DD(ドローダウン)は資産の山からの下落率です。OOSは最適化に使っていない未知のデータ期間のこと。プロップファームは提供資金で運用するトレーダー試験のことで、「1日で資金の5%以上を失ったら失格」のような日次ルールがあります。MC(モンテカルロ合格率)は日次リターンを再標本化して、この試験に受かる確率を推定した値。スリーブは、システムを構成する部品戦略のことです。
誕生: 期間設定10から70までのどこでも勝てた(研究16)
始まりは、金(XAUUSD)にドンチャン・チャネルというトレンドフォロー手法を当てた検証でした。直近N本の高値を上抜けたら買う、という古典的なブレイクアウトです。

図: ブレイクアウトのエントリー例(XAUUSD 日足・実データ)。直近の高値を上抜けたところで買います。
最初に疑ったのは過学習(過去のデータに合わせすぎて未来が予測できなくなること)です。特定のパラメータでしか勝てない戦略は、たいてい偶然の産物なんですね。そこでエントリー判断の期間entry_nを10から70まで動かして総当たりしました。結果は全設定でプラス。PFは1.13から3.29の範囲で、長めの40から55が最良でした。どこを切っても黒字というのは、過学習でないことの強い証拠です。
次はウォークフォワード。過去のデータでルールを決め、まだ見ていない期間で答え合わせをする検証です。

図: ウォークフォワードの考え方。後出しじゃんけんを防ぐ仕組みです。
| 指標 | 実測 |
|---|---|
| ウォークフォワード通算 | +11.4% |
| 勝ち年 | 8年中6年 |
| 最悪の年 | -2.6% |
| OOSリターン | +6.6% |
| OOSの最大DD | -8.3% |
| OOSのPF | 1.32 |
| MC合格率 | STEP1 43.8% / 全体24.5% |
統計的な一貫性、金という市場のトレンドの強さという裏付け、そしてパラメータ頑健性。この3条件を全部満たした戦略は、私の検証ノートでこれが初めてでした。ただし宿題も3つ残ります。最大DDが8から12%とプロップの10%制限に近いこと、金は日中の値動きが大きいのに1分足での日中リスクが未確認なこと、そして金1本への集中です。
1分足まで潜ったら、1日-7.2%が出てきた(研究17)
宿題の2つ目に取りかかりました。日足ベースのバックテストでは、1日の中でどれだけ資産が沈んだかが見えません。そこで1分足(M1)で口座の日中推移を再構築し、日次損失ルールに触れる日がないかを調べる。これがM1日中検証です。
結果、2026年1月30日に引っかかりました。リスクを資金の1%にした設定で日次-7.2%、0.7%に落としても-5.3%。どちらも「1日-5%で失格」のルールに抵触します。
バグを疑って掘ったら、真因は相場そのものでした。2025年9月1日に3445ドルで入ったロングが大きな含み益を抱えたまま走り続け、2026年1月30日に金が急落。始値5382ドルから安値4678ドルまで、日中だけで14.3%のレンジです。積み上がっていた含み益が一気に吐き出され、有効証拠金(含み益も含む口座資産)は1日で7.7%減少しました。
ここが面白いところで、このトレード自体はトータルで大きくプラスなんです。それでも日次ルールは有効証拠金ベース、つまり含み益の減少も損失として数えます。勝ちトレードの真っ最中に失格し得るわけです。トレンドフォローの「利を伸ばす」性質と、日次損失ルールの「1日の減りを抑えろ」という要請の根本的な緊張関係が、数字ではっきり露呈した瞬間でした。
じゃあどう防ぐの?と思いますよね。方針はトレーリングストップ(含み益に合わせてストップを切り上げる)や部分利確で含み益の吐き出し幅を抑え、そのうえでM1検証をやり直すこと。もう1つ、金が5000ドルを超えて日中14%も動くというデータ自体が異常値の可能性もあり、検証データの健全性確認も宿題に加わりました(この宿題は後日、データ全体の点検につながっていきます)。
2本目のエントリーを足したら、逆に弱くなった(研究50)
残る宿題は集中リスクです。ここで試したのが、同じ金ロングにエントリーを2種類持たせる案でした。既存のブレイクアウトに加えて、ATR(直近のボラティリティを測る指標)を使ったロングエントリーを併走させます。エンジンは1シンボル1ポジションの制約があるので、2つを別々の口座として走らせて後から合算しました。対象はXAUUSDの4時間足、2015年から2024年のクリーンデータです。
| 構成 | 利益/DD比 | 通算リターン | 最大DD | Sharpe | PF |
|---|---|---|---|---|---|
| A単体(ATR型) | 5.41 | +60.5% | -11.2% | 0.90 | 1.44 |
| A+B合算 | 4.86 | - | - | - | - |
| B単体(ブレイクアウト) | 2.59 | - | - | - | - |
期待は「2本束ねて安定」でしたが、実測はA単体の一人勝ち。合算はA単体より悪化しました。理由は2つあります。1つは日次相関が0.64と高いこと。同じ金を同じロング方向で狙うのだから当然で、過去の検証で分散が効いたのは相関0.00近辺の組み合わせでした。もう1つは、強いAに弱いBを混ぜると全体の効率がBに引っ張られること。DDだけは単体合計の-17.6%に対して合算-15.9%とわずかに軽くなりますが、複雑さに見合う効果ではありません。
ではこの検証は無駄だったのか。むしろ逆です。一番の収穫は、ATR型エントリーがブレイクアウトより明確に強い(利益/DD比で5.41対2.59)という事実でした。結論は「束ねる」ではなく「金のエントリーをATR型に差し替える」。参考値として、プロップ条件の評価では各エントリーをリスク0.003(資金の0.3%)で走らせて+43.4%、DD-9.9%でSTEP1合格、最悪の日次損失は1.66%でした。研究17で見た-7.2%とは前提のリスク設定が違うので単純比較はできませんが、サイジングを絞り、より効率の良いエントリーを選んだことで、日次失格の危険水域から大きく離れた形です。
系譜が教えてくれた3つのこと
- 頑健性は「どの設定でも勝てるか」で測る。entry_n全域プラスという性質が、その後の全ての検証で本物を見分ける基準になった
- バックテストの解像度が命。日足では見えない失格が1分足で見える。含み益も資産で、吐き出せば損失に数えられる
- 多様化の失敗も前進。負けた比較実験が、最良の単体エントリーを教えてくれた
金トレンドスリーブの誕生から完成まで、派手な新発見は1つもありません。あったのは、生まれた戦略を疑い、解像度を上げて測り、比較で選び直すという地味な往復だけです。でもこの往復こそが、まぐれの候補と主力候補を分ける工程なのだと思います。
この記事は研究16/17/50を統合したものです。