勝率75.5%なのに資産は26%減った、利確と出口の改良が全滅した記録

トレンド · 1 min

トレンドフォローEAの出口をめぐる4本の検証(研究57/121/122/125)の統合記事。利確目標・ATRトレーリング・出口期間の掃引・ナンピンの全部が改善に失敗し、勝率が上がるほど資産が減る「勝率の罠」が数字で確定するまでを記録する。

勝率を36.8%から75.5%に引き上げる方法があります。やることは設定1つ、利確目標を値動きのすぐ先に置くだけ。ただし代償があって、10年で+122%だった資産は-26%の負けに変わります。

嘘みたいな話ですが、私のEA(自動売買プログラム)で実測した数字です。この記事では、トレードの「出口」をめぐる4本の検証をまとめて振り返ります。利確目標、高機能なトレーリングストップ、出口タイミングの調整、そしてナンピン。出口をいじる改良は全部ダメでした。しかも全部が同じ理由で沈んでいます。その理由が今回の主役、勝率の罠です。

はじめに: このブログと、読むのに必要な前提

初めての方向けに。このブログは、私(個人)がFXの自動売買プログラム(EA)を自作し、手法を統計検証して勝敗問わず記録している検証日記です。文中の「研究N」は私の検証ノートの通し番号で、今回は4本の記録(研究57/121/122/125)を1つの物語に統合しています。

主役となるEAはトレンドフォロー型のブレイクアウト買いです。過去の高値を上に抜けたら買い、その後は利確目標を置かず、過去25本の安値を割ったら手仕舞う。この「安値割れで手仕舞い」をチャネル決済と呼びます。要するに、上がり続ける限り持ち続け、崩れたら逃げる仕組みです。

用語も先に3つだけ。PF(プロフィットファクター)は総利益÷総損失で、1を超えると黒字。DD(ドローダウン)は資産の山からの下落率で、登山でいう「どれだけ下りに転じたか」。ATRは直近の値動きの激しさを表す指標で、利確や損切りの距離を「ATRの何倍」と相場の状況に合わせて決めるのに使います。

図: チャネルブレイクアウトのイメージ(実データ)。

図: 主役のトレンドフォローEAの構図。高値ブレイクで買い、安値割れまで持ち続けます。今回はこの「出口」を4方向からいじりました。

前提: トレンドフォローはどこで稼いでいるのか

4本の検証を貫く背骨なので、先に種明かしをしておきます。トレンドフォローの利益は、たまにしか来ない大きな勝ちトレードに集中しています。統計の言葉でファットテール(分布の端に現れる極端な値)と呼ばれる領域です。

つまりこの型の戦略は、小さな負けをたくさん受け入れながら、年に数回の大相場を最後まで乗り切ることで帳尻を合わせています。勝率が低いのは欠陥ではなく仕様なんですね。この構造を頭に入れて、4本を順に見ていきます。

検証1: 利確目標を置くほど成績が悪くなった(研究121)

まず一番わかりやすい実験から。現状「利確目標なし(チャネル決済のみ)」のEAに、ATRの1倍から12倍まで固定の利確目標(TP)を段階的に置いて、2015年から2024年の実データで比較しました。両端はこうなります。

設定勝率PF総リターン最大DDトレード回数
TP=1ATR75.5%0.94-26%-41.5%4,791回
TPなし(現状)36.8%1.31+122%-21.4%1,166回

結果は完全に単調でした。利確目標を近づけるほど勝率は上がり、PFとリターンとDDは悪化する。中間に「ほどよい利確」の最適点は存在せず、TPなしが勝率以外の全指標で最良です。

勝率75.5%で資産が減る仕組み

TP=1ATRの行をもう一度見てください。4回に3回勝つのに、PFは0.94で総合マイナス、DDは-41.5%まで深くなっています。勝率が上がったのに何が減ったの?と思いますよね。

減ったのは稼ぎ頭です。近い利確目標は、本来大きく伸びるはずだった年数回の大勝ちを、+1ATRの時点で強制的に刈り取ります。小さな勝ちの数は増えますが、負けの大きさは変わらないので、収支を支えていた柱だけが消える。さらにすぐ決済する分だけトレード回数は1,166回から4,791回へ約4倍に膨れ、取引コストとダマシを踏む回数も同じだけ増えます。

勝率は「気分の良さ」の指標としては優秀ですが、収益の指標としては逆向きに動くことがある。これが勝率の罠です。

検証2: 高機能な出口に替えても頑健にならなかった(研究57)

固定の利確目標がダメなら、賢いトレーリングストップならどうか。次はチャネル決済そのものを、ATR連動のトレーリングストップ(シャンデリア・エグジット)に置き換えてみました。運用中の4つのFXペア、1時間足の全期間で比較です。

一見すると改善に見えました。リターンを最大DDで割った効率(r/DD)が、既定のチャネル決済5.72に対してシャンデリア6ATRは6.74。ここで飛びついていたら話は終わりでした。

でも様子がおかしい。ATRの倍率を3〜4に下げただけで成績は悪化し、4時間足に替えるとその6ATRが今度は最下位に沈みます。パラメータと時間足にこれだけ敏感なのは、不安定な設定の典型的な症状です。

決着は期間を分けたらつきました。シャンデリア6ATRが勝つのは、円安と金価格の高騰で強いトレンドが続いた2021年から2025年だけ。2015年から2021年まで遡ると、従来のチャネル決済の方が優秀でした。全期間の見栄えの良さは、直近の相場環境にたまたま合っていただけ。過剰最適化(特定の期間に合わせすぎて他の期間で通用しなくなること)のお手本のような結果で、採用は見送りました。

検証3: 出口を緩めても絞ってもダメ、今の設定が頂点だった(研究122)

利確、つまり出口を近づける方向は単調にダメでした。では反対に、出口をもっと遠くへ緩めて利をさらに伸ばしたら? チャネル決済の期間exit_nを15から100まで振って掃引しました。

exit_nPF総リターン最大DD
151.14-31.8%
25(現状)1.31+122%-21.4%
1001.26+73%-32.6%

今度は単調ではなく、きれいな逆U字です。狭い15は利益を急ぎすぎて悪化。緩い100はトレンドが反転した後も持ち続けて含み益を吐き出し、リターン+73%とDD-32.6%へ悪化。現状の25が、「利を伸ばす」と「吐き出す前に逃げる」という相反する2つの要素の、ちょうど頂点に座っていました。

ちなみに検証2のシャンデリア6ATRをこの土俵でも測っています。PF1.37でリターン+125%とわずかに上回るものの、DDが-28.6%へ拡大して効率負け。チャネル決済の方が頑健という検証2の結論と一致しました。

検証4: ナンピンは損失を隠して増幅した(研究125)

最後は出口の親戚、ナンピンです。含み損がATRの一定倍数ぶん広がるたびに買い増して平均取得単価を下げ、戻りを待つ。「負けを確定させない」方向の工夫として、買い増し回数0回から3回までを比較しました。

ナンピン回数PF総リターン最大DDM1日次-5%抵触
0回(なし)1.22+41%-13.2%1日
1回1.18+36%-18.5%2日
2回1.14+32%-22.1%2日
3回1.11+28%-26.9%3日

表の右端は、1分足で日中の口座推移を再構築したとき、1日で口座の5%以上を失った日数です。プロップファーム(審査に合格するとその会社の資金を運用できるサービス)の審査では、この1日が出た時点で即失格になります。

結果は重ねるほど単調悪化。特に最大DDは-13.2%から-26.9%へほぼ倍増し、即失格の日は1日から3日に増えました。

ナンピンの錯覚はこう働きます。小さな損切りを確定する頻度が減るので、日々の成績は滑らかで、勝てているように見える。でも損失は消えたわけではなく、逆行が続いたときの1回の破滅的な損失として積み上がっているだけです。多数の管理可能な小損を、稀にしか来ない巨大損に両替する取引。マーチンゲール(負けるたびに賭け金を増やす手法)と同じ構造で、検証1で見た勝率の罠の、いちばん危険な変種でした。当然、採用しません。

図: ドローダウンの図解。

図: ドローダウン(最高値からの下落)の見方。ナンピンは日々の見た目を滑らかにする代わりに、この谷をほぼ倍に掘り深めていました。

系譜の結論: 利益はテールに宿り、早期利確はそれを刈り取る

4本を並べると、1つの結論が浮かび上がります。

  • 利確目標は近いほど勝率が上がり、資産が減る(研究121)
  • 賢い出口への交換は、直近相場への過剰適合だった(研究57)
  • 出口の距離は現状exit_n=25が逆U字の頂点で、動かすと悪化(研究122)
  • 損失を隠す買い増しは、隠した分を倍にして返してくる(研究125)

トレンドフォローの利益の源泉はファットテール、伸びるときにどこまでも伸びる少数の大勝ちです。出口をいじる改良は、防御のつもりでもこの源泉を削る方向にしか働きませんでした。そして削った見返りに増えるのが勝率、つまり一番気分の良い数字だという点がたちが悪い。改造した本人には「勝てるようになった」ように見えてしまうんです。

実践への持ち帰りはシンプルです。手法や改造を評価するとき、勝率から見ない。PFとリターンとDDを先に見て、勝率は最後に「その戦略の性格」として眺める。勝率が跳ね上がる改良に出会ったら、稼ぎ頭のテールを刈っていないかをまず疑う。私のEAはこの4本の検証を経て、出口を一切変えずに運用を続けています。

この記事は研究57/121/122/125を統合したものです。